コンテナガレージ

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「突き詰めて考える材料には打ってつけです」調月は相手の目を見て、応えた。「即答はできかねます。表向きの言葉ならば、合格でしょう」

「隠し事があると、言いたいのかね?」片方の眉が上がる、そして煙も立ち上る。テーブルのリモコンで空調が動き出した。

「ええ。まったく裏表のない人は、可能性の一つ、僅かな事でも気づけば、言葉にする。私が察していようと、そうでなくともね」

「……人の懐に入るのがうまい、実に上手だ。組織に属さないから身につけた技能でもあるのか」しみじみと早道はつぶやく、深く背もたれに体を預けた。「君の用件、要望の真実もまた隠されていると、君の言い分では可能だ」

「私の指定した額を超える。もっと言えば、相手が支払い可能な金額の最大限を引き出し、私に還元すること。非情でありません、そういった資金をお持ちの方を対象に商売をしています」

「息子が言っていた、事務所の経営とあなたの生活費と事務員への給料に旅費と滞在費にすべて資金があてがわれると」

「はい」

「多すぎる」

「ええ」

「真正面から切り込むタイミングを研ぎ澄ませたか……」早見は片方の口角を引き上げた。

「未熟です、話術は」

「君の事を調べてもらったが、何一つ出てこなかった。どうやって今まで生きてきたのだろうか、私は興味が湧いたよ。資金は君の望む額を提示する」早道は灰を落とした。灰皿はビロードのような材質である。形はしかし、型にはめたオーソドックスなこぢんまりとしたコンパクトさ。「他の者にはあの土地を渡したくはない」

固執していますね」調月はきく。「土地を入手した情報の出所をお聞かせください」調月はある人物にのみ私の情報を教えていた、私への連絡先である。不動産会社や土地売却の相手方からは漏れる場合にも必ず、一つの細いルートを通ってしか、事務所の存在は知られないように工夫を施していた。契約時の連絡先住所は私のもう一つの住まいを書き入れている。

 早見は回答を拒んだ、煙と灰だけが室内で自由に遊走と闊歩。

 調月は立ち上がって、室内を出た。背後から呼びかけ。

「審査はこれで終わりなのか?」

 調月は戸に手を添えて振り返る。「いいえ。まだ始まったばかりですし、他の方と比べて、ということはありえませんので。どちらが優れていて、どちらが劣ってる、そういった判断ではありません。土地に適う、とでも言いましょうか、適する人物は何よりもすんなりと私の疑いすらも通り抜けて、超然と誘われるように導かれる。早道さんに引っ掛かりがある、と言えない。今回は特殊な例です、あるものから最適を選んでさらにまた土地を比較検討する。待ち焦がれても、気をもんでも、私にあれこれ接待を施しても、結局は土地が選ぶのですから、気長に待ってください。その方が、喜びは一入」