一分もかからなかった。目的の事務所、錆付いた、やけに高い位置で会社名を知らせる看板。彼女にお礼を言ってそこで降車する。しかし、車はなかなか発進しない、エンジン音が聞こえる。一度振り返って車を確かめた。こちらを伺っている彼女の表情はサングラス越しにでも心配が伝達するかのような振る舞い、それはあなたの身を案じているのだ、いたたまれないのは不安にさいなまれる自分の不快を収めるための対処。決して私が最上ではありはしない。ここでもまだ、私は傷を負うのか。
入り口ドアと平行の階段を上ってベルを鳴らす。セキュリティの類は、入り口の鍵。
誰も出てこない。もう一度押す。中から、うっすら人の音声が聞こえた。そっとドアに手をかける、開いた。
声をこちらからかける、すると主の声は人気のない入り口右手の階段から聞こえていた。
階段を下りた。異様なコンクリートのじめっとした冷たさが肌を襲う。降りて突き当たりを右に向かう、一人が歩ける程度の通路だった。もう一度呼びかけた。
「こっちだ」野太い声がはっきりと聞こえた。明るさに誘われるよう足を進めた先は、見まごうことなき巨大な倉庫そのものであった。天井が近い、私が立っている場所は空間の上部。天井を支える骨組みに手が届きそうだった。階段の踊り場に立っているようだ、下方から再び呼びかけられる。
「なんか用か?ベルを鳴らしたのはおまえさんか?」
「トラックの運転がここではできますか?」無線機を口元に構え、髭を蓄えた男はなにやら言葉を発して、見上げる。
「学校はどうした?」
「通う必要があると思いますか?」
「運転の経験は?」
「二時間前に免許を取ったばかりです」
「ははは。こりゃ傑作だ。すまない、気を悪くしないでくれ。いやあ、久しぶりに笑ったよ」男は顔をしかめてタバコの煙を吐いた。かと思うと、怪訝に空気がピリリと冷気を這うように私に届く。「命が賭けて走る気はあるのか?」