コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって2-5

「お客さんがなにか渋滞のようなことは言ってましたね、事故か、人が倒れているとかで、救急車も警察が来ないとも。なにかあったのですか?」

「さあ、私が訊いているのですから、事情は知りません」

「あっ、それはそうですね、はい。……わざわざ運んでいただいて、良かったら一杯飲んでいかれませんか?」若い男性店主がコーヒーのサービスを承諾させようとする。私は、視線を左に送った。お客が並んでいたのを、それとなく教えた。

「無礼な振る舞いとは思いません。ご心配なく、お客さんが第一ですし、私の用事は済みました。それでは」

 頭を下げる。誰に対する礼儀だろうか、美弥都は自分に問いかけた。錆付いた証拠である、そうやって自己分析。

 足跡を辿るべきか、踏み出した二歩目には行動が決まってしまう美弥都は、地下鉄の階段を記憶を辿り、進路を駅前通り取った。突き当たり、十メートルほど先でなにやら首を伸ばしては、遠くを眺めている。仕事を投げだしてまで気になる世情らしい。

 あえて美弥都は視線先を足元の数メートル先に留め、地下の階段を下りた。冷気と地下特有のドアの圧力差による見えない力が引きあけるドアを内側から引っ張っているみたいだった。光を取り入れるための階段、天井までの四方を覆うガラスにカメラのフラッシュのまばゆい明滅。いつか端末からカメラ機能が離れる頃を夢見る。そのときに写真という価値は引きあがるだろう。戯言で絵空事な小言。

 他愛もない考えに支配されてしまった、私の存在を活かす建設的な考えとらやらを模索に検索。

 電子マネーで待ち時間と後方からの圧迫はだいぶ減った切符売り場で悠々と券売機のボタンを押した。