コンテナガレージ

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あいまいな「大丈夫」では物足りない。はっきり「許す」が訊きたくて 8

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 夏雨に見舞われた。忙しなく反復運動に勤しむ間欠窓拭(wiper)は活き活きと蛙みたい。聴取は大勢に覗かれた取調室で一夜を明かす現在も続く。人権侵害の抵触を避ける参考人へは九時間の睡眠を促し翌朝七時頃に再開するらしい、起床は六時半であるから、食事、身支度を終えて間もなくだ。

 種田たちO署の特別捜査課は本事件の捜査をはずされた、権限の剥奪である。誤報を掴まされた失態を挽回したい、鈴木の訴えを熊田および上司の部長たちは軽くあしらった。部長に至っては昨日の正午前後喫煙室に現れたというが、思うにそれは部下の主張・意向は吸い上げた、登場が既成事実の形成と保全を担い、判断は一度持ち帰り後日改めて伝える、身を除(かわ)す術に長じた経験が鈴木の不満を掬いつつも自らはその場で明確な態度を避けたという言分(いいぶん)。なんとも役職らしい振る舞いではないか。

 非番。休息を取れ、命令とも受取れる指示に従う。そのつもりだった。非番に警察手帳の携行を控える種田は正午(ひる)頃に起床、洗濯、部屋ごと洗った、過言ではない。午後、仕事着一式を洗濯(cleaning)に出し、二週間返却を待つ一式をお忘れでしょう、と覚えていた店舗へ衣頼(いらい)と引取(ひきとり)の一切は飲込んだ。それからは線路沿いを走って目に付く商総施設(shopping moll)でfast food(ファストフード)を食べた、並木道などどこにもなかった、名ばかり。

事件を浚った。 そして現今。車が市内中心部へ向う流れと乗る。

時間帯を合わせて、門前払いに遭う。狙いは閉店間際。O市から続く海岸線をひた走り種田は夕刻を歓びに迎えたのだ。迷い込んだすえ時を過ごすと、口の裂けよう言わず。道案内に一度その恩恵へ傾けた私の末路など非を見るまでも雨に傘を要します、日常が合わさる。方角の向きと相性(あわ)ず、自覚が支える。

 S市中心部へ国道に路(の)りかえると渋滞に巻き込まれた。S駅の現場を再度確認し、そして『エザキマニン』へ市内を南下すれば、午後十一時前後が到着予定となる。

 階段であの時だ、熊田さんは所持品を尋ねるよう耳打ちをした。

 tall building(ビル)二階で高山明弘と対峙した場面で理解に至った。愚鈍な私にやっと遅ればせながら出会えた。それまでは二階に当該人物が待ち構えるとは予想外の、仰天奇天烈な世迷言。しかも高山明弘の登場はほのか熊田が匂わせていたが他の二人に関しては、度肝を抜かれた。種田自身、日本正と高山明弘の同一人物説は不確定ながら推していた可能性ではあった。日本正の掲げる口癖を真似た連鎖反応の余波が事件の前後に世間を染めたとはいえ、彼の出現や発言が取りだたされ、世間の注目を集めた時期は事件の半年前まで遡る、つながりは希薄だと思った。とはいえ多糖類を餌に炭酸瓦斯(gas)やアルコール類を生み、粘つくグルテンは工業塩と手の借(かり)る。団結力を水面下で高め、発酵作用がより体内で膨らむ。人の反射は意外にも緩慢、重い腰は遅れて上がる。

 忘れていた単純な人という仕組み。話すは事件の解である。

 泥酔し倒れた坂上貴美子は目撃をした。これは不測の事態だった。濡れた床を突き進む散漫な意識は地下道を最短距離で行かせ、彼女は通常の経路(route)を辿ってしまった。高山明弘を追い越す、そして東中央広場(concourse)の透明なacryl(アクリル)硝子に横臥(よこたわ)る死体を魅せられた。

混線(もつ)れてたとはいっても、卒倒前は歩けていたわけであり覚束ない足取りながらも自宅へ帰っただろう。しかしだ、『……確か、前に男の人が歩いていて、追い越したんです』坂上貴美子の喪失した記憶の断片を、真価と判ずるか否かという議論が巻き起こる。いいや、種田は首を振る。しらふの状態だったとしても残忍な所業を目の当たりに自己防衛が働き、格納、記憶は一時的に失われる。しかも記憶が途切れた場所と目を覚ました場所は違えた、となれば記憶を失う間際を語った証言は信憑性に欠け、演技や創作といえよう。〝追い越し〟は作られた記憶、あるいはかつて経験した記憶を元に再構築した。所属先の団員曰く、彼女は度々泥酔し同様の経路(route)を通って自宅に帰っていた。

 私たちと曖昧な記憶は顔なじみである。目撃者、聴取の相手は尋ねる度(ごと)に記憶を自らにとって有利な形に、そう無意識に変化させる。真に受けることも偽りと打ち捨てることもままならないのだ。「盡く書を信ずればすなわち書無きに如かず」、か。

 熊田は目撃者の存在にほぼ無関心だった。それでは取っ掛かりをどこに見出したのか……。

 手を上げる人、ずぶ濡れて緩やかな曲道(curve)の先で手を振る。後視認鏡(バックミラー)で後方を確認し指示器を出す、視界不良のため安全を体が優先する、女性を少し通り過ぎた行合乗車(bus)停の停車場へ車を寄せた。

 助手席の窓を下ろす。

「あのう、すいません。こんなに濡れてますけど最寄り駅、その電車が動いてる駅まで図々しいとは存じますが乗せてはいただけないでしょうか。座席(seat)を汚すかもしれないので、後部座席で蹲っていますので」女性は白い合羽の頭巾(food)を脱いで目を丸くした。「刑事さん!」

「どうぞ、ちょうどあなたの店に用事があったのです。送ります」小川安佐はいそいそと助手席に乗り込んだ。