コンテナガレージ

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手紙とは想いを伝えるディバイスである2-2

「近くを通りかかったので、私が呼ばれたのです」

 待合室のような部屋から隣の会議室そして、目的の場所に辿りついた。控え室から会議室の部屋への行き来も厳重に管理、ドアに付属された認証システムは親指の握りを瞬時に解析、タイムラグを生み出さずに開く仕組みらしい、男性は許された人間か、あるいは行き来を今しがた登録したばかりか、とにかく部屋の出入りはかなり制限された人物のみが許されると想像、熊田はシステムの厳重さを頭に入れる。

 死体は窓際のデスク、椅子から転げ落ちた様子が単純に想像し易いか。または、立ち上がった拍子にバランスを崩したか。室内にはここまでの案内をした女性とそれから迎えた男性に、もう一名男性がいた。質素な室内の調度品はデスクとPCに、コートをかけるポールとその隣のがら空きの本棚で完結、背後の窓はブラインドが半分下がり、下半分に窓が見えた。

 女性である。熊田は手袋をはめて、まずは生命反応を確かめる。脈はない、呼吸もなく、目を再び開く見込みは感じられない。熊田は身元を誰にでもなく、問いかけた。

「この方はどなたですか?」

「社長です」間髪いれずに女性が答えた。ついでに女性の名前を尋ねた。

「社といいます」熊田は男性二人にもきいた。室内に導き入れた風格ある男性は武本タケル、そして現場で死体と仲良く待っていた男は安藤アルキと名乗った。

「殴られていますね。後頭部です」熊田は慎重に血液の赤が広がる小ぶりな頭の丸みになまめかしい光が反射する粘性の液体を目に焼き付けた、まだそれほど時間は経っていない。乾いている部分と濡れて滴る部分とに分かれる。ペットボトルの水をデスクの下に見つけた。鞄がちょうど死体の顔の斜め上、デスクのフックにかかる。熊田は立ち上がって、窓際から死体を眺めた。かなり近い距離だ、背後に回って凶器が振り回せるだろうか、そもそもここへはドアの施錠を突破しなくては、入れない。事切れた主と同化、デスクのPCはひっそりと所在なげに見えた。

「内側からドアを開けるには、許可が必要ですか?パスや暗証番号の打ち込みなどは」

「いえ」社が一歩前に出て応える。「ここは社長しか入れませんし、ドアのすべては通常のドアと同じく内側から開けられますが、外側からは許可を得ていないと開きませんし、そもそもフロアにも降りられません」

「かなり厳重な機構だとお見受けします。簡単に室内、それも部外者が入るには苦労しますね」熊田は言った。

「待ってください」武本タケルが口を挟んだ、熊田の発言の棘に気づくあたり、勘は良さそうだ。「聞き捨てなりませんね、内部の、社員が問題を起こしたとでも言いたげですが?」

「ええ、そういったつもりです」熊田は淡々とした口調を心がける。「しかし、勘違いされては困るので、訂正します。可能性の高さをいったまでで、この建物内の、あなた方の会社の人間を犯人だと決めつけてない、とだけ言っておきましょうか」