コンテナガレージ

仕事(フリーライター)、日常、小説、その他諸々

はじめにクロス、つぎにフォーク 3

「いやあ、いや。『ブーランジュリー』で合羽を借りてひゃあ正解でした。屋根付通路(arcade)を出たとたんにこの大降りでして……すいません大きな声で突然。その、今よろしいですか?」顔を出したのは、約一時間前にハブと供に店を出た樽前である。

「出来上がりましたね?」店主は訊く。

「ひょっとして、ハブさんから連絡が入ってました?」客間(hall)の段差を上がって彼は合羽を脱いだ。裾より滴る。湿度がかすかに、上昇した。

「かかってきてませんよ」小川が答えた。彼女は座っていた席を空ける、椅子を橋口側にずらすと自らは隣席の一脚を床へ戻す。目配せに応えて店を出る、これへ生来の気質が椅子を一度二人席に戻させた。振舞いと中身は得てして対極の間に置かれる。

 樽前は、合羽の下に抱えていた。そこには目当ての、終演を言渡すものが居たのであった。

合羽は空いてる席にかけておくように、店主は告げた。右手に袖を通しchuck(チャック)を下げ白い箱をつかむ。洋菓子を持帰る紙容器だった。予想は的中したらしい。

「えっとまず見てもらった方が早いと思いますので」器用に合羽を脱いだ彼は円卓の散らかりように身を固ため、箱の置場に迷う。

「今空けますね」彼の席へ移る数歩につまみの山を一抱え二抱え。食器棚(cabinet)へ壁を有効に使う、左右と手前に落ちなければ、傾きは奥に任せた。

 一人が増えて四人と店主が食台を囲う。

「皆さん、信憑な面持ちで。僕は場違いでしたかね」

「あなたの持参した品は僕の世迷言をひどく助ける。開けてください」

「これが、ですか?」把握の遅れ、下ろすばかりの樽前は立つと箱を開けた。

 中実は半透明の敷紙に乗かる四本のミルクフランだった。一時間とわずか『クロス』を差置いて届く品物。生地は開店に合わせて捏ねた休ませるものを借用したのだろう。一次醗酵の中途がせいぜい、黄を差したオフホワイトの外見は、弾力に富む。

「中に挟む乳脂肪(cream)は左端の提供品(plain)を除いて、残りの三本は甘さを控える。甘さを引き立てるcoffee(コーヒー)と交互に味わうのです、腰を据えた『クロス』さんなら単品の注文もありえますから。とはいえ僕の提案によらずハブさんは三種を揃えるつもりでしたけれど」

「切り分けます、私」小川が率先してknife(ナイフ)を取りに離れる。円卓ではもっともな意見が飛ぶ。

「ミルクフランと事件、関りを示唆するどころか始めて目、耳にする。まったくの無関係、時間の無駄、と思えますが」種田は辛口を吐く、これへ樽前は恐縮し苦笑い。いそいそ小川がちかちかknife(ナイフ)の光る。

「糖分の摂取は脳働にうってつけです」四等分は左右正面に勧めた。 

手が伸びた、間を空かず一本ずつ甘く白い棒は胃袋へ、口を通じた。

「事件の鍵をミルクフランが握る?」紙拭口(napkin)で口元を拭く小川がこてんと首を傾けた。律儀、彼女を尻目に解は、届いた。食べ終えた橋口、種田の両名は一本目をcoffee(コーヒー)のお供に推薦。店主は二本目と一本目の中間、もしくは一本目よりもさらに抑えた品に投じ。小川だけは、手間を講じてくれさえすれば四本とも買いますけれど乳脂肪(cream)の配合を『クロス』のそれと大幅に違えては共倒れになりかねないので、二本目を理想に挙げた。

 店主は注目が集まればこそ、しばしもったいぶって、答えた。

「忘れ物が事件の示唆する、これは偶然に思えた。以前も解き明す糸口(hint)に忘れ物の手帳が関与していたけれど、異例が二度続くとは、疑いを持たされたために解明の遅れは生じたと、いえるのかもしれない。僕は書を抱える、行き帰りに出会えたら新聞・雑誌を通じて世が触る、また従業員たちからも外へ漏れはするだろう。もっとも、荷物を故意に忘れた実験でもそれは明らかになるし、週に一二度はそういったうっかり者のお客さんには出くわす。規定を知ることは可能だ。そう、あり得るね、知らず知らず犯人の流した情報を血肉と置き換えた。 うっすら怪しい粘度を感じはじめた時期は複写(copy)用紙の『大和本草』の束。惹きの強い忘れ物は回収を思い出すお客が数日後、店に駆け込むと予測をしていた。僕はその日のうちに一晩をかけて読んでしまった、翌日には精算機(レジ)の脇、主を寄ぶ位置へ戻さなくては、。しかしそれもこれも、思惑の範疇で、僕は踊らされていたのさ」

「草っていう漢字だから植物、花の性質を書き記した本か何かですかね」小川がきく。

「植物が主だけど、その他にも参考文献や動物についての記述も数多い」

「それとですよ、事件がどう絡むんです?」

「中華諸本草 乃群書の中 草木禽獣蟲魚土石を記載する者 古來博洽之士と雖モ 其説ク所 各同異得失有リ 往往誤認て名実を相亂る者 少からズ矣 本草乃群書に載ス所 齟齬有を看って知ル可き而已矣」

「な、なんです?その呪文。文字を読めたら、それでもさっぱりでしょね」小川の肩は引きあがる。

「この本は植物を編纂した書物、これ以前に同様の植物学を云う書伝があったようだね。ひどく著者自身を貶める記述、恐縮と能力の卑下が所々で散見される。とても自分は先人たちの所業に適う知識量を有してはいないのだと、それでも自分なりに収集し、考察に考察を重ねた末なんとか人目に触れられる力量(level)にまで達した。過信とは無縁の、著者の人間性があふれる文面。僕が覚えていた文は、端的に述べるとね、有識者とてその記述と実態の異なるものは実に多い、合致にかなわぬ場合が生じるので一説のみを信じきるべきではない。謙遜に嫌味を感じさせない、感じられない工夫、工作は書き手の人間性が不思議とにじみ出る。隠そうとしたところで取り繕いは見え透いたあて布を読者は見抜いてしまえる」

「ミルクフランと植物学の写し……むうう、さっぱり検討すらつきませんよ。こうなったら降参です、当たって砕けろ、出たとこ勝負です」活力(energy)を充填しあけすけな小川は活力を取り戻す。これと正反対、橋口は消化に精力(energy)を搾取されてしまい眠気が襲う。

「自らの考えそして過去の先人たちの含蓄は決してありのまま受け入れる適した内容物と、言い難いのさ。同じ呼び名でも分類(category)の異なる品種であったりすることを著者は指摘する。またそれは自身でも判別は難しく、素直に判らないと不明瞭な箇所を曖昧にせず、読み手に判断をゆだねる。事件とは大違いです。『規則』なるものの騒がしい一件は、物事の捉え方に一方向の解釈あるいは偏向を僕たちに迫った。委ねたとは別次元の押し付けとしか思えない。警察、駅構内の造りを解析すればこそ、安全面の確保からどうしても譲ることはままならない旧体制を逆手に取った、犯人の計略が一枚上手だったというのは事実でしょう。公共を具えた事業体と較べた『大和本草』よりの省察(せいさつ)もしくは飛び交う話題を従業員たちを踏み台に店内へと広め、無関心な僕が事件に疑いを持ってくれ。しかもです、来店の別意を携え顔出す刑事さんへ外(せけん)の誤と中(てんない)の変をぶつけて もらいたかった」

「私が訪れたとき凶器と目された食器は売り払われた後」種田の応答。

「そう、一足遅かった。凶器に使われて形が整のう後、食器が店に戻されたかどうか、定かではありません。いち早く国外に持ち出す、これが先決でしたから売却を待つより手荷物が運ぶ」

「、それって凶器として使用された食器が戻ってお客さんが知らずにそれで食事を堪能してた可能性は無きにしもあらずだとでも、言うんですかいなあ」小川の口調がちらばる。

「四組十二本に満たない三本一組(set)の欠ける組は二階に保管してあるよ」曜日にちなむ刻印が食器に施されている。 太陽☀、月☽、剣♤、瞳、鉄鎚、鷹羽根、葡萄が小さく組順の数だけ柄の縁を飾る。

「聞いてませんよ、そんな新事実。残らず手放したとばっかりぃ、思わされた。……じゃあ、鑑定したらもしかしたら、もしかしたらですよ、血液が検出されるかもでわないですか!」凋落しかかる燃料切れを先ほどまで起こしていたと微塵も感じさせない。ただ、彼女のほか色めき立ったのは、樽前を除く二名であった。はっと息を呑む橋口は居ずまいを正し、種田はその変位を捉えやや浅く座りなおした。

 たしかに小川たちが階段に腰掛け耳に入れた売却話は事実であり、後日彼女たちへ一報は告げたが、正当な価値を得ない端数の余り物は古美術商・保栖芳喜の助言(advice)に応じ、出品を見送っていた。雨合羽の訪問者が現れる少し前、並べた床よりそれら端数は選り分け食器棚(cabinet)の引出しに再保管(もど)していたのだ。

「そうだね」店主は遅れて意見を肯定した。

「駄目だ」と小川。

「そうだね」「けど関係者の鑑別が正しいと言い切れはしない」

「鑑識を呼びます、異論ありませんね?」種田が有無を言わせない口ぶりに迫力。

「僕が止めてもあなたは連絡を入れる。どうぞ」

「ご協力感謝します」

「待ちに待つ凶器=犯人を定める材料、物証は容疑者に真相迫ろう許可の得たも、。店長の云う日本久世さんであり高山博美さんなる人の、これで識別に踏み出せるってわけだぁ」血液は殺人を言い、knife(ナイフ)は出自を指す。「なあんだ。凶器が見つかれば一件落着じゃないですか。ここまでの遠回りが懐かしいです、はい」小川の裏(うち)に構える楽天家が舵を取りたがる。散り際の見せ場も、集中は切れてしまったらしい。

「見つかればね」慎めば、後悔は先に立たずである。

「意味深ですね」落とした胸の膨らむ、眉の上がる瞳とあう。「一筋縄ではいかず、もう一悶着があるとでも?」捲いた種、芽の出たそれを摘み取るは釣り上げた魚を狭い海に移すようなもの。育つを待たず、食べもせずに。

「言葉どおりさ。痕跡をまったく消し去るとしたら手っ取り早くいの一番に飛行機に飛び乗ればよし、もちろん犯人でなくてもいい、代役を立てればことは済む。僕が食器を残したことは、保栖さんを通じて古美術商の連網(network)へは瞬く間に広まりをみせた。出自、出品物の出身地と云うのか、所(ところ)に経緯(いきさつ)は鑑定家である美術商たちが眼前に惑わされず真贋に分ける目安と据えるらしい。市場(market)に出品したのなら否応なしに売り手は出生の秘密を事細か抱えるだけ、出し惜しみせず買い手に披露しなくては。manners(マナー)違反とみなされる。珍品で希少が知られても後に盗品や精巧な偽物として回収されてしまう痛手は、回避が望ましい。まがい物と見做された品は所有者へ還る保障は施されず、主催者へ所有権が渡るという決まり。、省いた食器の処(ありか)に持ち主を、犯人は知れるね。競売(auction)を基準に、これより前に終えていたら証拠品は二階、後なら異国の地」

「おりょりょりょ」私想を捨てられる種田でさえ突如滝つぼ深く、流され川を落下するなら理解は遅れよう。潜る小川は装備により水面をいち早く目指せた。橋口は瞼の運動に意識のすべてを、樽前は依然奪われた体温(ねつ)を上げるべくして。筋道をばかり追う。「店長というと、殺人事件は五月二十七日で、競売(auction)はその翌週の六月七日に開かれました、凶器は二階にあってなんらおかしいを通り越してあったり前ですよう」どうだ、言わんばかり。どうだ、そういっているつもりだ。

「皆さんが口にされてる殺人事件とは、S駅で起きた首切りのことですか?」飛かう言葉の処理を彼の理性は拒むらしい。論題はおよそ日常とかけ離れていたようだ、店主は傾きを正す。樽前を生贄に、座らせた負い目を感じて小川は、親切に着席する所の危険も隠さずにこれまでの僕の推測をまとめて述べた。

店主と女性刑事の間柄、卸売り業者または自称・犯人が顔をつき合わす囲む円卓の只今を、たどたどしく振り返る小川のまとめを聞きつつ彼は不振に四つの顔を見回した。

「凶器を調べる」自らに言い聞かすようでもある、通話を終える種田が言った。「血痕が見つかり、保護下にある女性へ踏み込んだ聴取を断行され、事件は終焉を迎える」そう、彼女に捜査権はない。

「果たしてそう言い切れるでしょうか?」店主の口が反論を言う。

「あなたが仰った」瞳がよく話す。「私は少なからず現在までひらかれたあなたの論理に綻びを見出せていない。証拠が見つかる、女性は日本久世に成りすまし顔を変える高山博美と言い切れる。もしくは最も遂行に相応しい者と捉えられる。口を閉じ、異見は棄てる、それら確証の得てのぞむ聴取と、私は心得ている」

「反論に打って出やしない、なぜ言い切れるのでしょう?誤認を恐れるあまり私を訪ねたのはあなたです」ふいになる。証拠といえど食器を送るまたは手渡して舞台へ上がった成りすましを露わに、日本正が依頼を一言加えて先は断たれる。彼は犯行を認め、賞を与えられたのは登壇した日本久世ではなく、日本正である。彼の自白が強まるばかり。

「公正名大などと絶対を謳うから、規則に縛られる。私は過ちを犯す、完璧な人間ではないと公言しますし、間違えるやいなや非を認める所存です。、開説(かいせつ)は無用でしょう」

 互いの瞳(め)に映つる姿のみる。しばし時は止める。

「お取り込み中に大変恐縮なんですけどぉ」小川が割って入った。煙草を一本もらえないか、私が献上した賭け事(gmnble)の戦利品であるし、もらっても罰は当たりません、鼻息の荒いこと。体が信号を放つ、明りの灯ろうと中枢(あたま)は休息の欲す。

「要するに」頼まれもぬ樽前が音の、出る。「どうしてか『エザキマニン』さんの二階から凶器と血痕が見つかり警察の捜査は前進を実(み)る、ということですかね」自信なさ気に語尾は力なく消える。

「いいえ」店主は朗々と言い放つ。「断定は難しい。なぜなら、ミルクフランの説明が抜け落ちている」

「はぁー忘れてましたよ、すっかり」天井(てん)を仰いだ小川の頭声(とうせい)。「ミルクフランは置いといて、よくもまぁ、植物学のあの漢文書き下しの文章を店長は読んで意味をもちろん解釈してですよ、それを事件と繋げた。橋が一本私には足りなくて、お客さんの忘れ物から関連を見出してしまう、、私は素直にすとんと腑に落ちないのですけれど。その点を店長はばしっとこう冷水を浴びせかけ一挙に私の目を覚ます一撃覚醒(punch)の効いた見解があれば、しばらくは黙るつもりです」ミルクフランもそれから考えます、対処を後に回せるだろうか。店主は小川安佐の言分に彼女なりの理をみた。尤もこちらの言分は通じていなかったらしい。 彼女が全体の平均に、橋口と滞在の短い樽前は加数(count)せず、、種田へも基礎は見下されたか。しかたない、乗りかかった船、沈没させるには船頭が多すぎる、いっそ大海に飛び込む手もあるが引きずり上げられるのが目に見えてるさ、店主は口を開ける。

「ミルクフランの前、柔焼菓(sponge cake)がそもそもこの店を事件に巻き込む張本人だ、ということを告げておく」左手の若い二人が声をそろえて驚愕の息遣い、正面の自失する橋口は先ほどから視線の彷徨い、右手の種田は橋口と僕に均しく気配を送りつける。店主は間を空けて、 吐く、次の言葉。

「店の斜向かい、『コーヒースタンド』の一号店が柔焼菓(sponge cake)を売り出した、これは発端だった。正しくは小川さんが行列に並び、数日間朝食の代りに始業前の僕たちへ振舞うがきっかけであるんだろう。柔焼菓(sponge cake)はcoffee(コーヒー)請けの甘味一覧(サイドメニュー)でありながら人気を得て二号店では主力のcoffee(コーヒー)を凌のぐ。席を設ける、歓談及び読み物に耽る方方へは長椅子(sofa)席をcoffee(コーヒー)のみ嗜みたくは長尺対面台(counter)席をと客層を分けた。持ち帰り(tekeout)も受付ける、自室や勤務先でcoffee(コーヒー)と甘味一覧(サイドメニュー)を食すお客もいるだろう。人気店、お客は引きも切らず、ごく稀に通るなら必ずやtall building(ビル)の外へ行列がはみ出そう。三店舗を近隣に構えたらばお客の分散すると思われるに出杯数は三倍に増した。繁忙期は継続、順調な経営に思えたそんな折、店主の樽前さんは危機感を抱きました。『PL』の台頭です。列に並ぶ大多数が流行り物に目のなくですから人の背を見続け買う、遠のく客足へ心を構えた。けれど、本日も昨日を欲しがるcoffee(コーヒー)と昨日を抛(なげ)る本日の食事です。どちらを定量・定間(constant)にお客の体は求めましょう。加え二度の来訪に躊躇いますやら、炎天が続く折は払拭、幾度と摂取に足を運び、願ってもない、中心部の固まる地域に店は開きます。持ち帰り(tekeout)ならば路上の一号店とtall building(ビル)の二号店、ゆっくり内外より冷えたくの体は二号店の長椅子(sofa)席と三号店が望ましい」

「店長あので……」店主は遮った。聴かずともよい、問うたときすべては語るのだ。

「樽前さんが苛み、恐れる破綻は実に不可解だよ。感じる必要の、何一つないことの証明に『限りによりはらむ価値を』、退けた行渡るための甘味はむしろ並ぶ楽しみを奪うな、既存のお客に白い目で見られるこの懸念は実に強い。ミルクフランの製造元『ブーランジュリー』のハブさんが首肯も固い。、確認せずとも、経営主の肌感覚は告げるのでね。最期。流行や世間の波に乗ると見なされたら、ここは以降を流(はや)り廃(すた)りの取入れる、向後店を支える常連客になりそこねます。個人(わたし)を例に。 いつもながらの趣は意識したとて新風空気の踊りが変えてしまう。開業は一年ほど僕が先。けれど日替わり昼食(lunch)を土曜日を含め終日提供するのと、季節の変わり目に数品出入りするが年を通じほぼ同じメニューを提示するとでは、どちらに想われているとお客は感じるだろう。思いめぐらす総量がまったくの別物、異なるのです。連鎖(chain)店に従属したとて、右に左に倣(な)らう接客と開発室が送る調理の済み仕上げを残す食事を、その創出・選抜の核を納得せぬままあろうことか憶え文面の通りお客に提供(すすめ)る珍妙なきまりを通常と言い張る店舗とはやはり対お客、それもうちの店にやって来る個々人の情報量たるや、もうそれこそ市場調査(marketing research)が適うはずもない、明日来ないかもしれないのです、であるならば昨日はどこで一体なにをどのぐらい食べていたのか、天気を肌で感じ取るがごとく日々お客一人一人から全体へ多々と協賛を得、本日の望む味と食べる量を僕らは見極める。ハブさんと同様です。あの人は陳列見容(show case)を埋める品々の他に個人客へ、麵麭(パン)を焼く。固定客の要望にいつ足が遠のくともしれない、彼は毎日作り続ける。その手法を僕などが、到底扱えません。お手上げです。 あれほどの細かい注文に答えた体力と根気は軀幹(くかん)の賜物としか思えない。真似は不可能、だが工夫を凝らせば近づけはする。ハブさんを見本に店を開業(はじめ)たのではない、後に取引を通じて知った、相応しいとはいえませんね、詳細は不要でしょう。要するに流行りに手を出すものは常連客の亡(うしな)われた店内をその目に映すべきだ、ということです」

 時間(とき)の流れをしかと収めるよう誓った禁煙を店主は破る。

「一見無益に感じられるが異行は生活に張りと潤いを与えた。黙々環生(cycle)を歩むうち、自らその役柄を望んだ、とはいえ、絵に描いた典型をこのまま送ってしまうのでは、もしかして義務を収めてようやっと見たことの試したことの正解を知る今日が、離れるのか。流れを変える。少々、いいや大幅なしかも緻密な修正案を練らなくては、それ相応の取り返しのつかない事態は切り離せるものでもなし。踏み出し定量な暮らしは捨てられるか、廻ぐる悩み。判断を迷う、しかし今日という昨日を生きたとして錯乱が一間、間合を詰める 絶命はいや、体内は逃れる機会を合掌待ち望む、手を打たなくては。……何も、、そうさ、能動なる私が事態を変えるなど誰が決めた?取巻きを操る、その場で一歩たりと動くに及ばず流れては景色、津々浦々の出来事が見えるみえる。操作だ。しかしそうは云うけれど咋(うかつ)に手を出そうにも両手を広げ発覚が待ち受ける。一市民に一勤労者を逸脱してはならずだ。branchとloop。枝を伸ばし絡みつかなくてはならん。何がよいのか、対象は……誰に。 あいつだ、あの店だ、あれがいい、あれこそ相応しい、おっと思わず手を叩いちまった、店では紳士を演じる、ついうっかり素を出さないために日ごろ居住まいを正す訓練を続けてきたんだ。ほうら、珍しく過去を思い出してやがる。良好だっていえるさ。やっぱりだ、けしからんぞ、あの店。tall building(ビル)の一階に不釣合いにも構えやがって、必死に身を粉にし先代より譲り受けた店を、人生を半ばにおり手に入れた、。まあいい、それもこれまで。こっちにはとっておきのミルクフランがある。柔焼菓(sponge cake)などたまたまた僥倖(ぎょうこう)に恵まれた。危機感を煽る。競合(rival)店はまるで彗星のごとく現われ、そして躍進著しき店の望まれるか。勇壮に奪われる。憧れへ指を咥えるか光は嫌い足元の見つるか、はてはまた遠くにその場を立ち去るか。店は構えてしまった、遊牧民のような身軽さとは無縁、さぁどうるするよ、立ち向かうのか、ええっ、 おい、あがいてみろ、私の周り、ほうら踊ってみろ、のた打ち回って泣き喚け、縋れェ、頼れぇ。尻尾は出しておこう、自ずから然り。奇遇を装うさ。学生たちがうってつけ。無能だ、ただ今蹴散らす苛まれし逸魔(いま)が悦予に溺ぼる、扱いは容易い。成人男性が好のむ甘さの指標と昼食(lunch)終了後の空腹、早朝に筋向いの一号店と二号店の柔焼菓(sponge cake)は先週発売号の『月刊MAKING』★店主が選ぶ並んでも食べたいThe ranking of sweets(スイーツランキング)★に『コーヒースタンド』の柔焼菓(sponge cake)を推薦しておいた、活字を信用せずはこれで白紙に戻るものの、潤う、背に腹は変えられません。女性従業員は柔焼菓(sponge cake)に釣られ情報をせっせとこらせ『エザキマニン』へ流そうなら時の満ちる。これを粛々と普遍的な作業に従事する変わらずの私がこれを、待ちに待つ。 言ったでしょう 、相談に走った。『エザキマニン』の客は界隈の移ろい詳しく引提げ、いずれここへと顔の出す。数日の後舞い込む依頼その前に、『規則』の型に嵌めにゃあな、そうそう昼食(lunch)がちょうど良きに、君を利用させてもらおうじゃないか、ししし、笑いが漏れた。調査(research)に着手、時間はお金と代える時代さ。切羽詰る人らに真っ当を見せかける法外な費用は商売上手というよりも足元をみた、時による重要度を見極めし秀でた資本経済の申し子であるのさ。ああ、好(よ)きところに善き過去があるではないか。だが、ただ、、、これでは少々、型どおりの額面どおり。ちっともだ、発起がままならんぞ。一重、二重、三重っと、これで良し。 忘物は私の役目。不断に店の立てるは大きく誤り、いかに店主だろうと食事を摂る、それも客席に隠れる裏にしゃがみこっそりひそひそちゃっかり、たったの数分さえよ、すっかりぺろり。なんてぇのは休憩時間を割いてまでもお客を入れないと経営が成り立たない、お客のためを思って、真っ赤な大嘘よぉ。これこれの裏返しさ、店の存続につきお客の要望が叶えられているのです。大変だぁ、私たちを想い店に立ち続けてくれる、salaried man(サラリーマン)たち常連客の見方。狡るく賢い者と人情厚くも働(はたらき)浚われ内部に効かすそれは生薬みたいな市民。本草書、新聞、毎月発行の食業誌、店主の表情に合わせ置き忘れよう。先がようやく開ける、楽しみではないか、たまらんではないか、いしししし。……沸々、想像はるかな功績浸り、かみ締めることでしょう。どなたかは申し上げにくい、気遣いではありません。証拠が見当たらないのですから追求したとてその方が打ち明けましょうか?連絡もなしに突如店を閉め、再び開いたらばそれはより一層の待たされた故の決壊に見舞われることは必至なのですよ。人が殺される。空気に飛び交う菌のごとく、『規則』は蔓延していた。あなた方と私もです、間者へ向けた透明な自家製が『規則』に、犯人は色を与えた。明確な自他の区別を迫られた、ただこれまで自分が作り上げた意識であるために抵抗を難を避けられ、広まりを見せたのでしょう。とはいえです、死の瞬間をあわせなくてはなりません、幾回の奇遇、この重なりが基に調べが難航する現在を迎えるのですから、は……」

 音声の遅れに像が先走る。口元と舌、影の片顔陰影深く柔らかな顔立ちへ鼻筋彫りの奥、目の怒りに戸惑い。いっそのこと半分ぐらいでよいのかもわからない。

 長々話す店主を竹をまるで割るがごとく遮った。小川安佐は我慢がならなかった、訂正は言い淀み次に次ぎが二の舞、もう、もう、もう・もぉつ、耐えられず袋は破れた。いつに増して喋り過ぎたと思う店主ではあった。が、列席者の理解を鑑み述べる内容ではあったと思うのだ。注目の小川へ譲る。

「たんま!、です。店長でやっとの演算に私がついていけるもんですかぁ。すこーしです、私に時間をください。言われる前にっと、皆さんにも了承を取ります」「 店長が演じた人は、真犯人で店を構えていてこの店、『エザキマニン』の常連客でしかも、漢字だらけの『大和本草』と新聞と月刊の食業誌をわざと忘れていった、ということでまずはよろしいですか?」

「小川さん、多分皆さんは理解してる。君だって順序立ててしかも自分の言葉に置換る。その技術は高等だよ、ありのままを受け止めれば処理はより速まる」

「私、だ、けですか?、だったら私が変なのですかね、なんだか、その皆さんと私は一線を画するというのか、これを言っていいものかどうか……店長が言う犯人とやらを私わかってしまったんです」

「どなたですか?」種田は抑制を利(はたらか)す。もう流れるを追い河口を突き止める覚悟なのだ。

「店長……」描く眉は緩やかに八の滑跡(シュプール)。言わずして終わる、喜ばせてしまい、特定は当人の得になるのだ。これは縁の向かう橋口にも言える。彼はその仕様に気づいた。犯人役になりきる彼をこの集まりの最後、釘を刺すつもりだった。連行される彼は参考人に毛が生えた程度の聴取から解き放たれる役割、渡し(bridge)なのだ。崩れる、彼自らが川に落ちて恒久が対岸の者を守り、霞み朧ながらその手の振れること。眺、結ぶは人が想い思う像。話を進めて彼の自白(虚言を打ち明け自分のほかに真犯人がいる)を願いしも、『規則』に呆れるほど従順だからこそ演じられるのさ。この討論さえ『規則』の基礎に建つのだから。これは、これで。現、ありのままとも云えよう。

「『クロス』の店主が日本正、妻久世、目撃者高山明弘、妻博美、娘秋帆とは他人、無関係だからこそ利用者に選ばれたんだろう」店主はここぞとばかりにうんと送くる。「日本正とその妻久世の関わる不可解で猟奇なる過ちを、店主は思い描いた。妻久世の死と夫正の頑(かたくな)にそれを隠す非化学の実態を世に知られる、これを狙った。ところが思わぬ方向へ転がる。目撃者高山明弘なる人物は日本正が演じた、『生存』とは見られることです、身を隠し生きていても不思議はありません。世俗を捨てる、世がいつであろうと狭き人の間に起これる、退隠ですよ。都会の日暮しはまこと夜とあろうに明々となんとも嫌気の差すこと、確証は仰るよう低くとも、ありえない話とまでは言い切れない。つまりはそうであることを保持し続けなくてはならない。特に警察は断定、特定を重んじます。 制度に従う、あしたへ安全を引き渡すには抗うより流される風向きでありましょう。生存をきっぱり切り捨てるとあなた方に憮然を強いる絵空事は一個人の想像、推理は世迷言と一蹴され、物と状況の証拠に曖昧の極わみたる動機掲げ、立てた当時のきまりに順ずると、現今も云えた。空恐ろしい。巷を離れるのも頷ける、それが身を守る術の最良なのです。僕も似たような生活を実践してますが、やはり干渉は一定量降り注ぐ」

 小川は目をぐるりと回した、円卓の際に支えられる立ち姿はかろうじて起立の保つ。「こうなったら思ったまんまを言ってしまいますよ」鼻息の荒い。二度、肩が息をする。唾も飲んだか、夜が味方。「日本正さんは目撃者高山明弘と同一人物である、または駅の殺害(くわだて)を二人が共有していた。日本正さん一人は捜査の手が自らに及ぶまでの行きつ戻りつどちらよあちらが不足するだろう、と予測。声は聞こえど姿の見ない高山明弘さんを推挙、手は摑かまえ舞台上へ連れ誘う。観客、私たちの目の玉に並ぶお二方が映ります。 錯覚だった。二役を一人(いちにん)が、私たちの目の前で演じたのかも知れない、店長の意見ですね。私は、場面へ配(はた)らく姿(ふたり)は見ていたのだと思われます。受取り方に由(よっ)て二人の一役を務める構成、彼ら出演者が仕掛けるお客への挑戦だろうかと、。脚本家は『クロス』の店長さん。ちなみに目撃者で飛び入り参加の坂上貴美子さんは酔いに任せ壇に上がってしまうが眠りに落ちたので、物語は彼女に薄布をかけ、進みます。刑事さんは私たちも含めてですけど、被害者に関して有力な手がかりを求めたでしょうか。無用、という名の風潮に身を許す。、けれど亡(いな)くなるその人の周囲を刑事さんはたしか上司の方と訪れていますよね、一度、自宅に。被害者の奥さんがいて被害者の子供がいた、隣に公園があって傾斜地に家は建つ。それって、目撃者の住む借家と似ていませんか? 私、思ったんです、刑事さんたち勘違いをしたんじゃないか、被害者と目撃者の家を混同して目撃者宅へ二回足を運んだ」

 種田は目の色の変わる、軽うく口が開き姿勢のよい体躯は固まる。目まぐるしき判定が脳内を駆け巡る、過去の一場面を鮮明に現し観せる能(ちから)。誤り、まさか、自分が。引き起こすは過信ではない、能力の高さゆえ端々の修正までを記憶が頼みもしないのに互いを摺り寄せて。利用に値(あた)る方へ記憶が傾いた。

「反論されない。刑事さんは、本態と出くわす」通りを補助灯が過ぎる「周辺の聞き込みよりも切断面に注目が集まります。奥さんはほとんど事情をひけらかすことなくにひっそり、解剖施設から火葬場に向かった。鈴木さんの資料にもこれ以後の報告は、もう一訪の引越し先に必死でそれどころではありません。蔑ろと云いますか、検討にすら入れもせずでしょう、うん。 開演より舞台に上がる端役、観客にその居場所は見えている、けれど誰一人と演者は彼らに触れない。忘れていいんだ、人のようなものがいるな。彼らは置き物に生った」

「物騒な話ですね、」橋口はしみじみと溢す。

「いえ、店長はこう言いますよ」小川は指を立てた。「狙いを定た復讐ほど安全な殺人はない。ねっ、店長?」

「正常な行(おこない)に付いて回わる踏破が殺意を駆立て実行へ移す源(もと)であったと云うなら、斬首という現実はそれが原因で起きた。そして僕に及んだ余波が今回の狙いだった。刑事さんが日々取扱う殺人は小川さんの言うとおりだろうし、僕の意見と相違はない。が、」切れた言葉が消えぬ間に続く。「刑事さんたちの錯誤は本意にあらず、企てにその時犯人は気づいて欲しかったと、僕は考えます。被害者を綿密に調べ僕らが視た現実と異る面に触れました。、とはいえ犯人の意図、恙無(つつがな)い行進を助ける僕らの没入した盲目がこうして読み取れ、しかもその洞察を紐解くと、被害者に重きを置いた捜査であろうがいずれ目撃者とその周囲に日本正が僕へと流入(なが)れ、路は張り手薬煉(てぐすね)を引けもしたのだろうね」

 種田は首をひねる。片側へ、捻る。ため息と物を冷ます吐気が尖がる口先より放たれた、言う。「では」「特徴を似せる者を舞台に引き上げたのはなぜでしょう」やはり潔い。

「そもそもの順番が勘違いの始まりだった」残りを算定、店主は灰を伸ばす。種田は息を潜め水べの虫を狙らう魚のごとき黒目に塗潰す瞳の浴びせる。肉を食いちぎられた想像が刹那に浮かぶと暗転。「解剖の詳わしい結果を一にも二にも調べて欲しい、犯人は願った。しかし目撃者が増えたことによって高山明弘に集光(spot)が当たってしまう。構成を変える。犯人は変更を余儀なくされた。怪しんで欲しい被害者と目撃者それぞれの自宅が刑事さんたちの目に映ってしまう。立地、似通った構造と外観、見晴しを頼りに類似点を見出し、相違。 懸念は一度晴れ、撤回。どしゃぶりです。亡羊と、霧の立ち込める傾斜地、張り込むあなた方に目撃者の住まいと最初に伺う被害者の自宅との混同を起す。気がついてくれたら好いのだが素通りしてくれても問題はなかった、計画を、これだけ這わせていたのです、想定に入れたとて大掛かりな仕掛けにはむしろ怠慢こそが場違いですよ。手を打たずにいた、ということは計画に勘違いは含まれていたと、考えるべき。その後は追ってのとおり『規則』が登場、招かれざる訪問者、そして事件を挟む前の柔焼菓(sponge cake)と後の代替品」

「収まりがつかない」判断しかねる、感情の揺らぎと彼女は疎遠だ。「教えてください、『クロス』は何処です?」抑制の効いた教示の求とめはしかし、怒気の洩れる進言。

「形を成す証拠が残るとは思えません。 僕らが捏繰り回した行方は、あくまで想像の範囲内での矛盾を取り除いた結論であります。捜査を執り行なうには同意、相手の許しが必要ですし、現実の、規則を設ける施街(せかい)ではそれこそ令状を掲げねばなりません、取得には裁判所へ調査に値する事実または物証なりを提出しなくてはならず、紙一枚が私活(private)な住居・建物内へ家主の許可を得ず侵入する行為は許されません。はい、ここでも『規則』なのですよ。 犯人は、それを人一倍理解していた、僕よりも警察よりも、です。恥じることはありません、また失態でもない。無関係な人物を利用したのです、当然ですね。実際、単純で浅はかな人間の行いがいわゆる犯罪と呼ばれるのであって、通常なら何かしらの関係は見透(みえ)た。、今回のような犯人についてはもう、網の目を掻い潜る千に当る一騎、言うなれば老練な弁護士です。『規則』に触れなければと、正確な距離感(はかり)は備えていた。僕らは後に追い、考えた。、出だしからすでに、結末は見えていたのです」

 席を立つ種田はその背中へ言う。

「約束は守ってください。規則は規則です」「小川さん。案内を」

 ――尻尾を出すかもしれない。念のため。種田はあいまいを明瞭に、呼び寄せた警官にS中央署へ連行するよう橋口の身柄を引き渡すと、小川を連れ店を出た。

 帰ってもらはなくては。昨日が引きずられたら、それが一度であろうが、店に通う意味は失われる。所持金は潤沢だろうか、私の中身は片道分のたかだか二百十円ぽっきりである。祈ろう、手は尽くした、すべきことの末になるほどな、店主は思う、神を見出すのか。得てして疲れを押し込めた幾夜にそれは隣に腰を下ろしているのだ。

 店主は満足げな橋口それから、樽前を見送った。仰ぎみる、下りる瞼に景色を焼き付けた。

 夜明けには早い、数時間のあと。散歩、てとてと足の進む。『PL』の前に主張板(placard)を持つ数人が鎧戸(shutter)にもたれ寝る間も抗議に忙しい。

 川に佇む、街頭の明かりは水面の頂きを時に照らす。

 生きた者が死んだ。

 トくとぅく、たルゥたん、さー。ザー。地を目指した流れは、いつもの流量へ戻っていた。増水、危険だ、涸(か)れた。近ごろは水不足の話題がお客さんの口より聞いていない。気温が年平均.(コンマ)五度も上昇するというに、雨雲の糧となる排気が増えているのだろう。奇現(guerrilla)豪雨を予測したとて、生活を見直し根に遡り正さなくては、慌てふためく後手に回る様子は目に見えて明らかだ。けれど指摘を飲み込む。、利を失うから。 ちぎり、放る。地面に近く、丈の揃う青々草が香る。月は隠れていた。休みをせがんだか。僕は、時を問わず無休だ。いや。接触を限る私だ、休まる気はいつもである。雲と天の境だったらしい。のっそり、宵月はみな面に浮かぶ。上空を見上げず煙草に明かりを頼った。背後の長椅子(bench)に。円筒銀の灰皿よ灰の待構え、内袋状物入(pocket)には携帯用に収める皿も出番を待つ。

 写る鏡に自分と問い、煙る息と死が呼応、誰が居るというのだ、私が僕がここには要る。

「本日はlunch(なに)が食べられますか」

 僕は訊いて。店主が訊き返した。私が、食べたい物をはきはき告げた。