コンテナガレージ

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3 ~小説は大人の読み物です~

 

「天井をご覧ください、照明がともってます。朝の早い時間帯、太陽はもうそろそろ上がる頃でしょうか、廊下側がちょうど日が昇る方角、室内はほの暗い。薄暗い中で眼鏡をかける方が素のレンズをかけますか、可能性はあります。とはいえ、室内しかも紫外線の懸念やPC等のブルーライトの遮断は払拭される。早朝、彼女の席は窓側です。日当たりは悪く手元には手帳のみ。ええ、それだけはもちろんありません、服装をご覧になりましたか。はい、グレーのスーツを着用、黒い薄手のシャツを着込む。そこへフレームが白い眼鏡を選びますか、しかも形はおよそビジネス向きとは正反対に近い代物。はい、不十分でしょうね、安易な経験則、とも言われかねませんので管轄外の意見はこのあたりで。次に移りたいのです、末端の出来事にまで指摘を施す破目になるとは私自身、不確定な事態です、ええ、これは認めましょう。もちろん、不愉快です、表情に表さないとは約束をしていないのです、ええ、後日訂正させるかもわかりません。必要でしょうか、と私は反対に問いかけますよ。退出された彼女を疑う要因は、今回の会合そのものが理由なのですよ。皆さんは入力機器や通信端末の類を表の廊下でその身から切り離した、内容はその頭脳によって再現をされるよう、こちらサイドの意向を受け入れ、会見の場、私が話す内容を正確に覚える。彼女は耳を傾けていませんでした、私にはそう映ったのです。視線を合わせずとも耳を傾ける人物特有の発話者に対する虚無の態度を平然と取った。言葉が通じていない動物がその際たる例、何を考え、次の行動の予測が難しい、ところがその場には滞在を好み、隣に座る。声はかけない、頷きもしない。しかし、離れようとする、または大げさでわかりやす緩急のついた動作には機敏に反応を示すはずが、彼女にはそれらの生態が抜け落ちていた。カメラが収めてくれるだろう、と見返す余裕があったからでしょうね。おそらく、最初の退場者に彼女を指名していたら、反発をされた、これまでの二人はそのための布石、先例を晒すことによって反論の機会を奪う、残酷なように思えますけれども、私は彼女に貢献をした、そのように考えます。卑劣、常識に欠ける、非常識?ええ、あなた方が担う、従う規則からは逸脱を図りました、私自らが望んで踏み外す。なぜなら、それがが私の商売であるから。大勢が歌を届ける、あふれる音を奏で歌声はそこらかしこ、それこそあなた方が持ち歩く端末にぎっしりつまる。アクセスは可能となった、特定の手順と費用と場所の縛りを解いて、もう何年になるでしょうか。物質としての価値、金銀を髣髴とさせる所有に見出す価値は既に失われつつあります。それなりにですが、私にもファンが存在する。謙遜ではありません、事実です。拡大解釈がひどく、自信過剰で世間を舐めている、どのように認識しようと構いません。どうぞご勝手に、話はまだ途中なのです。続けます」

 

3 ~小説は大人の読み物です~

 

「事務所の数少ない社員を呼び寄せてもらいました、向日さんという方です、記載にはMとイニシャルでお願いします。彼女は、ええ、女性です、会計業務とホームページのウェブデザインも手がけます。小さな事務所、大勢を雇うよりも一人分の給与に加算をする、そのほうが効率的なのでしょうね。経営面に関してはこのくらいで。向日さんを交え四人で彼女のPCに顔を突き合せます、タブレット端末ですのでテーブルに平置く、これで内容の確認が行えました。近頃では普通らしいですね、キーボードと一体化した製品というのは。まあ、それはおいておくとして、お客の急募に、「カウント」というアイディアを私は盛り込むよう提案をした。短絡的な回答ですね。残りの席数を煽る、という切迫感を狙った無益な商品を買わせるはずがあるでしょうか、一度考えを租借してから発言をすることを求めます。横槍が入りました、まさに話の腰を折られましたか……。残りの席数の提示は分かりやすさを重視、気になるたびにお客が旅行会社へ連絡、ホームページのチェックなどでは手間がかかって仕方がない。カウントをクリックすることで、旅行会社の私のツアー企画のサイトに飛ぶ、ありきたりな手法であり、面白みもない趣向ですが、反応速度は高められた。ただ、それでもツアー企画の申し込みにはタイムラグが生じるでしょう。なぜなら、事前に旅行会社に氏名等の登録を済ませている人は少数でしょうし、申し込みは電話やサイト上の簡易な確認では承諾を得られない仕組みを採用しましたので。個人情報の入力と振込みの完了を以って企画への参加を認める。ですから、機内で演奏をした曲目についてはお答えできません、そうお伝えしたはずですし、これで三度目の警告ですから、申し訳ありませんけれど、あなたには退席を願います。職員の方、そちらの男性を外へ。はぁ、皆さんも発言には十二分に配慮を。そうですね、機内についての諸事項は機密です。期待はずれだと思われたようでしたら、それは皆さんの検討が誤っていた、という自身への反省もどうか私への罵倒とともに試みてください。所属する機関、企業、媒体を代表してわざわざ会見場に足を運んだ。出版を前提に、記事の内容を私のチェックを済ませた掲載を約束、契約を結びましたよね。退席された方へは、料金の支払いは請求しません。時間を使わせてしまった、せめてもの償い。何しろこの会見自体、開く予定ではありませんでしたから、期待をさせたてしまった、私の責任です。空港で出迎えた事務所の社長から連絡を受け、着陸前私たちは機内から連絡を取り合った。この人数の二倍は控えていた報道陣の数、回答を拒否することは世間的な批評を浴びる。もっとも私はそれでよかった、それが望ましい、とも感じている。この瞬間もです。もうお一方、そのカメラを。通常の眼鏡でありませんね、フレームのふちを不自然につまんだ、よく気がついた、眼鏡がずれ落ちる方の特徴として、折りたたむ接合部分のヒンジを引き上げる方と左右のレンズを囲うリムを繋いだ鼻の上部に位置するブリッジを触る方が多い、フレームごと触る方は少ないでしょうか、私個人の見解です。こういったデータを収集せずとも、連れて行かれるあの女性が普段は眼鏡をかけない人物であることは明白でした、答える必要がありますか、とても傲慢ですね。……いいでしょう、立て続けに退席されたのです、私の警告が不十分であった、この事実も受け止めるべきですしね」

 

3 ~小説は大人の読み物です~

 

「また、当日の渡航が困難なお客に対しては後日、渡航と同等の演奏が披露されなくてはなりません。これについては、現在検討中というか、参加できなかったお客さんたちのスケジュールを聞き取る段階で調整にはもう少々時間がかかる、とだけお伝えしておきましょう。ええ、もう一度言いましょう。ありのままをお話しするつもりは毛頭ありません、そのことをどうかお忘れなく、三度目の機会が訪れないことを私は期待します。残る課題に私たちは取り掛かる。権限を持った担当者、事態を把握している者が二人、私の目の前で端末を駆使、方々へ確認を取り交渉を図る、スピーディーでした。続いて検討の材料は、私の事務所プリテンスのホームページとJTC(ジパング旅行乃社)のホームページに同時掲載を踏み切るか否か、を議題に上げた。情報に触れる機会をお客さんに向けて創出する、これが狙いです。そもそもが異端の企画ですし、なりよりも私の歌を聴くつもりがあるお客、なおかつ一週間をひねり出せる奇特なお客に向けた情報発信、と私は捉えます。はい、そういった意見は女性担当者が真っ先に忌憚のない意見を述べてくれた。ただし、多くの目に触れる機会を望みはしましたが、不特定多数とまで願ってはいない。その他多くの旅行企画であるならまだしも、これは非常に狭い領域を狙う、まさに提案です。大勢の意見に左右される人たちには口をつぐんでもらいたい。おっしゃるとおり、矛盾をはらんでいますね、私の意見は。とはいえ、飛行機代欲しさに搭乗される遊び半分の輩と長時間フライトを共にするのは公演を待ち望んだお客にとって非礼にあたる。ファンクラブ等の会員システムは設けていないのです、所属一年目に検討はしました。何が、優遇されるのでしょう?優先的なチケットの獲得権を得て新曲の売り上げを見込む数字としての指標に利用をされる、私が会員ならばそのように受け止めます。さあさあ困りました、お客には知らせたいが、大勢に発信しては企画自体を台無しにしかねない。私の情報はほとんど更新をしません。ですから、常にチェックを欠かさない、というお客は少数です。寸陰を惜しんでいる暇はしかしありません、ええ、手を打つべきだった。失敗であるなら、次の方策に切り替える。私は行動に移しました」

 

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「食中毒を起こした、これは偶然か否か。事実確認は皆さんの専門ですから、各自で判断を。さて、何はともあれ、飛行機が一台空いた。けれど、懸念事項がまたひとつ残されてました。ええ、ハイグレード席の処理です。最悪の事態を回避した、とその事実に気がつく数分間、私たちはとんだ夢想に耽っていたわけです。飛行機一台のチャーターに比べ微々たる金額ではあります。が、可能な限りの無駄な出費を控える、費用は抑えたい。いいえ、たとえあなた方よりも預金額が多いからといって無駄遣いを見逃すことは等号では繋がりません。楽観的、という評価も誤りでしょう。むしろ、臨機応変に物事を捉えた順応性の高さ、という捉え方をなされてみてはいかがでしょう。話を次の場面へ展開します。一旦席をはずす女性担当者の放射した顔のパーツ、ドアをくぐって見せ付ける表情から事態の好転が予測されました。なんとハイグレードの席は存在しなかったのです。新しい機種らしく、なぜ機体番号が七の数字から始まるのかは知りませんが、通常機体の中央に配した高額な座席が、エコノミークラスの上位席に作り変わっていたのです。おそらくは数時間単位の航続距離ではなく、長旅に適する工夫、新たな試みなのでしょう。必然的な応対でしょうね、他国と自国を渡り歩くビジネスマンが毎回高額な席は買い求めませんし、ただでさえ高額な旅費、コストカットは企業、個人を問わない、適切な充当先を探します。つまり、高いと思われていた高額席がワンランク上のエコノミー席であったのです。そして、ビジネスクラスの席は先頭に設けられていた、次の検討課題は、その二席のどちらを私たち一向が使用するか、に切り替わりました。お客は数時間の演奏とその何倍もの睡眠を強制するのです、誰しも、ビジネス席のゆったりした座り心地ち、そして寝心地を欲するでしょう、無料なのですから。よって、観戦予定のお客をビジネス席に宛がう、これは決定事項であり確定です、ああ、検討は言いすぎでした、あなた方への説明に内部の処理速度を落とした解説でありますから、判断はたった数秒の所要時間であったことをつけ加えておきます」

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