コンテナガレージ

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エピローグ 1-3

 踊る煙。お客が一人、店を出た。
「お代は僕が持ちます。僕は二杯飲みました。では」忘れ物、紙の束、便箋かメモ帳、手帳にも見える。ぺらぺら、薄っぺらな厚み。
 窓を眺める。車が二台地を這う。「運転手は誰だろう。先に出て行った人かな、僕を気遣ったのか、それとも刑事と聞いて挨拶をためらった。まあ、僕とは無関係だしな、あの電気自動車は十和田さんの所有だもん。ふああぁーあ、この平和もいつまで続くかねえ」
「これ忘れ物です、僕が届けるべきなのでしょうけどこちらのほうが手元に返る割合は高いですもんね」レジ前。「ご馳走様、いや違うな、うーんと、あのう、コーヒーをおいしかったです」
「どういたしまして。またのご来店を」
「ああ、ここも石だったのか」店を振り返る、黒くくすんだ石の部屋を出られた。後遺症はどうやら鈍感な性格が幸いしたらしい、拒否反応を示さなかった、意識の問題かも、数パーセントの光刺激が見えている景色を見させる、そのほかは勝手にこれまで見たものでもって取り繕う、過去万歳、鈴木は駐車場へ踏み出した足を戻し、歩道を選んだ。鍵をかけた机の引き出しに作業日誌を納めた、時期を待つさ。権限を手にしたら、道を戻ろう。振り返って判断に判定を下す。それまでは刑事の職を続けなくては、多少荷が重い、とりたてて人生を賭けた仕事など生まれつき縁がない、隙を見せれば実家に雇われる、姉たちにこき使われる、それはご免被る。橋、たくたくと流れる川、右手はもう海。境目を舐めると塩っ辛いのかもね、明確なんてもしかすると世界の少数派だったりして、振り返ってそのあたりが切り替わりだよ、決め付けているように思えた。

完。