コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって4-3

「あっと、いや、ランチは食べてません」鈴木は言葉を濁す。予測するに視線は僕の背中を捉えているはずだ。「店長さん、少しお時間によろしいですか?」

「なんです、また事件って、もしかして外でわんさか仰々しく不穏な雰囲気を匂わせてる正体ですか?」

「物々しいですね、正確には」鈴木は、はははと笑い、それとな訂正した。「あのう、ほんの数分でよろしいのです、なにぶん現場を一始終を眺めていた目撃者に逃げられまして……」

 店主は振り返った。積んだ皿に隠れる鈴木の顔、わずかに小川の体の向きで位置を把握する。鈴木からはこちらが見えているらしい、店主は厨房の段差、カウンターの切れ目に立ち位置をずらした。鈴木の眉は八の字を形作る、対外的な印象を如実に表すバロメーター、動物の尻尾に近い使用方法だ。

「数多くの人、僕を含ますと、相当数はおそらく数十人、一棟のビルから見ていたと想定して、百人規模の人が現場を目撃していた。捕まらない、とは不思議な発言です」

「はい、証言は、その聞き取れました。ですが、簡単な聴取ですし、拘束の権利もありませんからすぐに解放して欲しい、そういった要求には応じる必要があります。目撃談はなんというか、おかしなことに皆倒れた場面は見ていないというのです。あれだけの人ですし、停止車両の運転手にも話を聞きました。……角度的に見えたのは先頭の一台、後続車両は横断歩道を渡る通行人が壁となって、やはり事態が発現した場面は見ていないと……」

「先頭の人はだって、見なくてなにをしていたんです?」小川が訊いた。

 鈴木は肩を竦める。「端末の操作に追われていたらしいですね」店主に鈴木は向き直った。「倒れた通行人はブルー・ウィステリアの新製品を腕に装着していました、偶然ではありますが、交差点の先頭車両縦と横の通りの二台も同様に端末を填めていた。運転手が気分の悪さも訴えていて、多少めまいのような気分になった、と証言しています」