コンテナガレージ

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ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって4-1

 交差点中央で倒れた歩行者の介抱に当って、十数分後にようやく走り寄る警察官が一名ずつが到着した、今朝店を訪れたO署の種田と鈴木という男性の刑事である。端末の電波が通じない、複数人がほぼ同時期刻に倒れた、突発な容態の変化であり、気を失う予兆は感じ取れなかったことを報告、彼らはそれを聞き入れると、周囲の交通整理を取り仕切る。どこかおどけた人任せな態度、という鈴木の印象ががらりと、店主のなかで変容を遂げたのであった。

 制服警察官は通行人が倒れて三十分後にやっと到着した。店主の記憶では一本北の通りを西に数ブロック進んだ近辺に警察署があったはずだ、他の事件・事故に人員が借り出されていたのだろうか、いいやそれにしては遅すぎる、まして救急車の到着が警察より遅くては、待機車両の効果は税金の無駄遣いといわざるを得ない。

 とにかく、事態を彼らに引渡し店主はその場を離れた。鈴木の呼び止めに、事情は店で聞きます、そう伝えた。その場で長時間の拘束は避けがたい事態だ、僕にはディナーの仕込が待っている。ただ、目的をまだ果たしてしない店主は、足早に騒然と人垣を縫って、移転先のビルを一目視界に捉える、それだけのために、北上し本当に数秒間だけ交差点の斜向かいからビルを眺めた。重要なのは、ビル周辺の環境であって、店主は後ろ髪をたった数秒惹かれた。また写真に収めることもせず、踵を返して店に戻った。

 店員たちは表の騒然、異様な雰囲気に僕が事件や事故に巻き込まれたのではと、身を案じていた。時間には正確な僕であるから、一応非礼を詫びた。ただし、騒動の渦中にいたことは内緒にした。過度な詮索を受けるのは避けたいし、館山リルカを休憩に入れなくては、二名で厨房の料理を作る必要が生じる。お客とってのこれは不具合であるから、確実に避けたい。