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非連続性3-1

 ようやくもたらされた鑑識結果は、到着の三時間後であった。もたらされたとはいっても、鈴木や相田が逐一、情報の上がりを一階の鑑識まで聞きにいっていた。毎回、情報は権限を持たない種田たちの部署を飛び越え、捜査依頼を申し出た上層部に上がり、そこから降りてくる。そこで熊田は即時性が失われた情報を嫌って、新鮮な状態の鑑識結果を欲したのである。

 何度目かのトライで鈴木が獲得した情報が部署にもたらされた。

 I市、臨港の平原で発見された女性は氏名が樫本白瀬、年齢は二十二歳、クリエイティブ・クリエイションに勤務する会社員と判明した。アイラとI市の商標施設デザインコンペの最終選考に残ったデザイン事務所が彼女の勤務先であった。

 これにより、アイラと山遂の会話から浮上した可能性、死亡した樫本白瀬がアイラのデザインの情報を盗み取っていたという事態も調べなくてはならない。デザイン会社同士、巨大プロジェクトの取り逃がしは事務所経営への打撃が目に見えて予測される。小さな事務所でならば尚更だろう。

 計画立案へ注いだ時間と労力がすべて消えた。ネットで調べた情報によれば、副賞や特別賞は存在しないらしい。選ばれなくては、一番にお眼鏡に適わなくては意味がない勝負。しかし、勝者側の計画を盗んで一体何を企んだのか、種田は考える。

 一つは、入手したデザインをクリエイティブ・クリエイションの名前で世の中に発表し、開発の手を遅らせ、アイラたちに商業建設のデザイン変更を強いる。しかし、それではクリエイティブ・クリエイションの事務所が抱える金銭の解決は図れない。それならば、何者かが資金提供の代わり工作を指示したと見るべきだ。 

 O署の室内は現在、種田だけである。空調の低音が老朽化した風貌のまま、取り替えられることなく今年も昨シーズンに続き、本格的な稼動を始めた。窓は氷が覆い外は一切見えない、冷蔵庫ほどの高さと幅と奥行き、上部の開く送風口付近の高さの窓にはうっすらガラスが透けている。

 種田以外はタバコを吸いに喫煙所に行った。今頃は捜査方針と今日の行動を決めているはずだ。疎外感はない。むしろ、従属は意識の自動化に設定を施せば生活は人々と同等にまかなえるというもの。

 私は応えるべきではなかった。家族という無意味なつながりはきっぱり消し去ったはずだ。あいつと私がもしも……。何を無益な考えを掘り下げているんだろうか。種田は首を大きく振って、気分を一新するために廊下に立ち、自販機でコーヒーを買い求める。自販機の隣、廊下の突き当たりの喫煙ブースでは三人がまだ煙を吐き出して吸い込む。煙幕がはびこる個室を横目に種田は室内に戻った。

 デスクに置き忘れた端末が光って応答を待っていた。相手はアイラである。