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不躾だった私を、どうか許してくださいませ1-3

開発には多大な、それこそ専門外の分野にまで責任者は最低限の知識と技術のあらましを備えて、三日に一度訪れる進捗状況と方針転換の再確認と計画自体の廃止を問う会議に挑まなくてはならない。

 私は全体と開発チームの指揮を二つ抱えていた。片方に疲れると、もう片方の処理に移る。時に二つが重なり合う場面にも遭遇した。そこでは、取り掛かった仕事を終えると、特別に無駄な時間を過ごす。何もしない、しかし自由にしてよい時間を作る。無駄にはカウントしない。効率を高める上では必要な休息であると、学んだからだ。他人の作業効率はどうだか知らない。ただ、何事にも興味の対象は開発作業なのだ。誰が身につけるのか、誰に見せるのか、いつしかそれは着古した普段着に姿を変え、操作性の興味から新鮮さを失ってまでも、生活に浸透させることが可能であるのか……。特別な休息時間を想像に充てる。これが無駄と思うならば、インスピレーションをよそから引っ張るばかりに神経をすり減らす愚鈍な従業員の、余剰なクリエイティブに必要とやらの時間を私に手渡してしまえばよかったのだ。

 また一人、右腕に填めた新商品が目に飛び込んだ。見せ付けてる、隣を歩く知り合いに。

 また一人、見つけた。高齢の女性。着物を着ている。歩幅が細かい。耳が遠くなる、あるいは先天的・後天的に聴覚に不自由をきたす人向けの開発が最初のスタートだった。よしよし、聞いている、新商品の腕輪を填めた側の手を恥ずかしがるように頬に手を当てると、音が聞こえる。軟骨をつたい、音は鼓膜の前の気道、つまり耳の穴、音の通り道で増幅され聞き取れる仕組み。

 見せ付けるように次から次へと、食事が一向に進まない、うれしい悲鳴。男は箸からサツマイモまんに取り替えた。大きな蒸かしマン。多少冷めてもおいしさを保つ工夫がはじめから施されているのか、容積が大きければ奪われる熱の速度は弱まる。