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手紙とは真意を伝えるデバイスである2-6

「ええ、まあ、そういうことにはなりますね」

「だったら、悠長に構えてないで、犯人を捕まえるか、私の無実を証明してほしいです」

「この人に意見を言っても無駄だ。あまり真剣みを感じない」

「ふざけていても真実にはたどり着きます」熊田は応えた。「誰を愚弄しようと、あなたと社長との秘密を暴露しようと、私は犯人が見つかるのが先決だと考えています」

「ほらね、言ったとおりだ」武本は飽きれて、腕を組み、そして目を閉じた。

「社さんには、そちらの武本さんから、あなたと社長さんとの関係について聞かされたので、真意を確かめるべく二人に揃ってもらったのですよ。社長の端末にあなたの連絡先、履歴が残っていたそうですが、あなたと社長とはどのような関係でしょうか?」秘密だといっていたのに。そういった胸中を表すように社の顔がぱっと外側へ各パーツが広がる。

「……人前で話したくはありません、拒否します、私」社は眉をひそめて、口をつぐんだ。

「いいえ、あなたに話していただきます。社長との関係性をあなたは武本さんに話す義務があるのです。彼は事件発生の直前に社長と電話で話をしていた、殺される直前です。あなたは社長とは近しい存在。あなた方が言う社長は仕事上の接触が少ない人であった、それはプライベートにも適用される。つまり、全社員の中であなたが社長に近づける立場にあった。どなたか心をあたりはありませんか?あなたの口から、武本さんに話すことで、社長が繋がりを見出した人物の表情、輪郭がうっすらでも浮かび上がってくるかもしれないのですよ」

「何でも、……お見通しか」社は熊田の説得の中盤あたりで表情は諦めにも似て、屈折した歪んだ顔が厳か、脱力して作り直した顔で向き直ったのだ。

「今度は私の密告を暴露するのですか?」武本は言う。

「あなたは言われた側と言った側の両方に立っていられる性質を私は見込んだのですよ。安藤さんにあなたの立場が務まりますか?」

「あれは気の毒だけど、無理だな」

「ええ、ですから。あなたに」

「私、隠すつもりはありません、だから、武本さんにはそれは了承してもらいたい」折れそうに社が武本に言う。

「口外したりしませんよ。で、社長との関係は?」

「姉妹です。血は繋がってません。親が勝手に社長を養子に迎え入れたんです」

「あなたよりも社長のほうが年上に見えます」武本は言う。「一緒に住んでいたのではないと?」

「生活は一共にしたことなんて一度も。私たち、私には妹がいるのですが、二人が独立して家を離れてからのことだと思いますよ、養子に入ったのは」

「何かしらの理由があったのですかね?」熊田は聞きそびれていた質問をぶつける。

「ああっと、よくわかりません。おかしいとは思いますが、父が亡くなったときも、社長が姿を見せたことはありません。唯一、その香典に多額の現金が包まれていたことは驚きましたけど、父は弁護士をしてましたので、個人的に助けてもらった相手が恩義を金額に代えたのではと。そのお金もすべて父のために使いましたから、弁解しているのでありません。また何を言われるかもしれませんから……。お金は家を引き払う時の一軒家のリフォーム代と不動産会社への仲介料とか、相続税とかもろもろもです」