コンテナガレージ

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手紙とは真意を伝えるデバイスである2-5

「はい、少し仕事が長引きそうだから、そういってました」

「社長の端末には履歴にはあなたへの発信履歴が残されていた。社長さんはあなたに社員として遅れる旨を連絡していた」熊田は社長のバッグから端末の履歴を呼び出して調べていた。

「交わした言葉に違和感はありませんでしたか。つまり、機械的な音声で彼女が話していたとか」熊田は鋭く目を向けて武本に質問する。彼は、幾分たじろぎながらも、早くも気持ちを立て直す。

「いや、それはないと思います。ただし、確信はもてない。少なくとも、私との会話のタイミングにずれは生じてはいなかった」

「そうですか」熊田は安藤に体を向けた。ぎょっと安藤は天板に張り付く手をどけて、席に着いた。「安藤さんはもう戻ってください。また事件に進展があり次第、犯人が判明したら、ご連絡を差し上げますので」

 安藤は何かいいだけであったが、それよりも武本と同じ空間にいられない、という意志が勝った。立ち上がると、そそくさと会議室を出て行った。当然に武本も帰還を要請する。こちらは帰宅だった。

「あなたにはもう一人、会っていただきたい人がいます」熊田は端末を取り出して、社ヤエを呼び寄せる。彼女が来るまでの間の会議室といったら、早朝から鳥の鳴声を排除したようなそれでいて殺伐とした空気を思わせる。私は意外とこういった沈黙は慣れているというよりも、好みに近いだろうか、熊田は思った。種田との車内ではおおむね、こういった沈黙が主流である。いかに人がその雰囲気に左右されるか、熊田は想像した。楽しくて笑うのとは異なる。笑おうと必死でいると、楽しくなる。踊ると歌うと騒ぐと非常識であると楽しいのだ。反対に暗くて静かでゆっくりでいると、悲しくて寂しくて後ろめたい。

 社ヤエが姿を見せた、彼女は汗をかいている、暑いのだろうか、ここは。そういえば、武本も上着を脱いでいた。外の気温に内部の調節がうまく行っていないのかも知れない、熊田はそう思いつつ、彼女を席に座るように手を差し出した。彼女は手に持ったペットボトルそれにバッグを肩にかけていた。こちらが話し出す前に、社は訴える。

「そろそろ解放していただけないでしょうか?私、子どもを保育園に迎えに行かないと」

「ええ、そちらの要望も受け付けたいとは思いますけど、しかし、人が殺された状況からは、安易にあなたの要望だけを抽出して、もし仮にあなたが犯人だとすれば、殺人犯を取り逃がしたことになりかねません」

「他の社員を帰したって、要するに私たちの残った人の中に犯人がいるってことじゃないのですか?」