コンテナガレージ

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手紙とは真意を伝えるデバイスである2-7

「ご両親のために社長が何かをあなたに頼んでいたということはありませんでしたか、例えば、遺品などを欲しがったとか」

「いいえ、それはありえない。私は知らなかった。社長の遺産を親族が引き継ぐ場合において、社内に親族関係者を雇ったのは自身の後継者を故意に作り出している、という取締役会の指摘に答えるために社長は私へ連絡をしました。そして会議に徴収された私が、そこで戸籍上の血縁関係を社長から聞かされたのです。連絡先は会社の端末ですから、自分で調べたのでしょう」彼女の妹、玉井タマリと同様の聴取である。ただ疑問が一つ、姉妹同士で突如現れた妹の存在を話し合わなかったのか、熊田は首をかしげた。

「確かに血縁関係は、社内ではご法度だ。血縁者を採用する場合は親族は採用に口を出してはならない、まして社長ともなれば、その権利は絶大であるし取締役の連中も調査を行っているはずだ。苗字も異なり、遺伝的な繋がりがないのなら、外面で判別は難しい。そこで血縁者が発覚すれば、巧妙に後継者を社内もぐりこませたと、勘ぐられるのは当然のことですよ」

 二人の感度が合わさってきたようだ、熊田は連動を断ち切る。

「二人もエレベーター内では会わなかったのですか?」

「……はい」社は時計を気にして応えた。

「武本さんも?」

「ええ、彼女が会っていない。私が会っていたら、おかしいです」

「おかしいですね」

「嘘はついてません、正直に話しています。もう、刑事さん、少しぐらい私たちを信用してください」

「それは無理なお願いです。あなた方はどこかに事実のふたを勝手に閉めたと思って対応していないと、隙を見せたら、事件に関係ないと高をくくって、すぐに言葉をキャンセルしてしまう。これの大切さどれだけ知っているのかをご存じないからですよ。とても重要で、事件の解明に欠かせないのです」熊田はコーヒーで喉を潤した。美弥都はこうも喉を痛めているのか、と体感する。だから普段の無口が成り立つのか。必然の行動、確実に痛めているだろう。もう一息。