コンテナガレージ

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「私の場合、趣味が先行しています。しかし、まあ、商売ですから、売れる土地を選んで買います」調月は応えた。

「それで生活は、失礼なことを聞いてしまうが、成り立つのかね?」鼻の頭を掻いて老人はきいた。

「これまでの蓄えがあります。銀行からの融資にも手を出していません。事業とはいっても元手は私の勘と脚力と趣味のアンテナ、滞在費と旅費に食事代。土地が見つからなくても、休日を利用して数日旅行に出かけた、と考えています」

「とても都合のいい解釈だな」

「はい、それはよく言われます」

「家に帰らないのなら、奥さんが文句を言うだろう」

「ああ、私は独りです」

「それは、すまなかった」

「いえ、慣れています。無理やり人と住むことを選ばなかっただけ、私には向いていないのですよ」

「今日は孫が遊びに来ている。ついさっき、遊び疲れて眠った。息子夫婦は、私から外へ遊びに羽を伸ばすよう勧めた。家内は部屋で孫の寝顔を眺めている」老人は黄昏たように目を細める。「私の勝手だ。彼らはすべて私の栄養剤だ。そう思えて、あなたは付き合いを遮断したんだろう、目を見ればわかる」

 初対面の人物に内部を見透かされたのは姪に続いてこれで二人目。案外、私の性質はわかり易いのかもしれない、調月は否定も肯定もしない顔を老人に返す。答える義務はない、沈黙も私に許されているのに、人はこうった場合、場を取り繕うために頷くのだろうが、私は頑なに私を維持した。

「その顔に免じて、いいだろう。特別な思い入れがあったことは一度たりともないのだから」

「あのう、どういうことでしょうか?」一人納得の晴れやかな老人に調月は尋ねた。

「ここは本来、私の土地だ。国に管理に預けたのは、他でもない、私が勤め先が政府機関であったからだ。要請に応じたが、あちらは詳細は語ろうとしなかった。とにかく、譲って欲しい、その一点張り。つまり、管理のみが政府の権限で土地はまだ私の権利なのだよ」調月は目を見張った。あまりにも展開がそれも私にとって好適に転がる事例は万に一つとして、運のなさを痛感してきた人生であったので、ありえないと細胞が拒否を示したのだった。「なんだ、隠居老人の話は信じられないか?」

「……滅相もない。運とは無縁の人間、偶然には一度、疑ってかかる癖がついているのです」