コンテナガレージ

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 昨日はスペックの入れ替え検査に、丸一日を費やす。新築ビルのような病院を上から下まで行ったりきたり。僕を含めた三名と一緒に入れ替え検査を受診、今日の休息を挟み、明日が入れ替えの本番というわけである。肉体的な修復の前日は、外出などはもちろん、病院内を歩き回ることや飲食の有無も制限されるが、スペック入れ替えに関しては病院ビルの半径一キロまでならば、外出の許可が下りていて、食べ物も固形物以外は決められた時間内の摂取は問題がないらしい。

 検査、一日、入れ替え、というスケジュール。

 僕は初めての入れ替えであった。友達から検査の内容は聞いていたので、心構えはできているつもり。だけれど、やはり不安は拭えないらしい。適度に心臓の鼓動が意識の下にまで這い上がってきては、最悪の事態を想定させる。大丈夫。僕は言い聞かせる。ベッドに寝そべった。午前中から窓を眺めて何をするでもなく眼下に広がる光陵な岩肌と僅かな緑に見とれているのが、気分を降下させるのだ。いつもならば、悪いとは思わないが、緊張は明日になるまで、入れ替えの直前、麻酔で意識を失うまで続く。それまでは取り合わない、これが利口な考え方。

 検査を共に受けた人たちとは同室。四人部屋だ。ドアは常に開いた状態、これは昨日の観測に基づく。夜、就寝前に閉められて、朝の検診が開錠の起点となる。ベッドを出ると、正面の男性と目が合った。会釈。ゴマ白の短い髪、男性は白眼を向けて、首を数センチ動かした。特に、失礼とは思わない僕である。互いの干渉は極力控えて生きてきた。日が落ち、眠ってしまえば忘れて書き換えるといった、不要な情報を取り込んでしまえる構造をどうやら僕は持ち合わせていないらしい。それは、学校でも社会に出ても言われていたっけ。だから、うまく対処するための方策を僕はこれから実行に移す。人との距離が近い空間を出た。抱えきれないほどの処理に困る前に、取り入れた各種の記憶なり、情報なり、思い出なりを、僕は事務的にそして手作業で一つ一つ形をまとめるしか、機能しないらしい。入れ替えの検査はたぶん、この頭の交換が主な修繕箇所なんだ。

 医者はマスクに隠れた顔で目だけが笑っていた。憶測を僕は検査のときに素直に伝えた。特別これまで隠していたつもりはなかった、ただ結婚相手がどうしても検査を受けてくれってせがんで、僕の言い分は不十分にしか伝わらなく、彼女の日々心配を膨らませる態度が検査を受けるきっかけだった。