コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

手紙とは想いを伝えるディバイスである1-5

 組分けは案の定、鈴木と相田がペアとなり、二人を先に食事に向かわせた。そして、室内は二人だけ。無口な二人が残る。静かである。あまりの沈黙に息遣いも聞こえてくるほど。熊田は目を閉じて、眠ってみた。仕事中にである。しかし、どこかでブレーキがかかり眠りを妨げる、もしかすると睡眠を必要としない体に変容したかも。

 何もしない、時に立ち上がり、応接セットのソファにくつろぐも、新聞のような媒体を熊田もそして種田もほとんど読まないので、両者からもそういった巷で流れる話題に事欠いていた。そうか、話す必要のない相手との間を埋めるために、世間の話題が存在するのか。しかし、そこには必ず嘘や真相を膨らませた、話したい、しゃべりたい気持ちをただぶつけるためだけの発散に、聞く側が利用されたりもする。だから、あえてそういった話題が聞こえてくると自分から離れてた。

 一時間後、二人と入れ替わりに熊田は駐車場の車に乗り込んだ。一人である。

 彼は、正面は道路を挟んで海が見える絶好のロケーションを見せ付ける、海道沿いの喫茶店を訪れた。

「アイスコーヒーを」カウンター席に座り、熊田は注文する。店主の姿はなく、女性の店員がてきぱきと華麗な動きをカウンター内で披露、お客の何人かは、彼女を目で追っていた。

 店の滞在が一時間を越えたあたりで熊田が席を立つと、端末に連絡が入った。

「熊田さん、どこです?」鈴木である。

「喫茶店だ」

「その近くにどでかいビルがあるのわかります?」

「ああ、来るときに見た」

「そのビルで事件です。殺人でしょうか、詳細は不明ですが、死体が見つかりました。僕らに名指しでお呼びですよ」電話口の鈴木は嬉しそうに弾ませた声であった。

「わかった、先に行ってる」

「おねがいします」

 会計の際に、店員の日井田美弥都から言われた。「事件ですか?」

「ああ、すいません。声が大きかったようですね」

「いえ、もう店を出て行かれるのですから、不満はありません」

「相変わらず、手厳しい」

「おつりです。受け取ったら、次の方に場所を譲ってください。どうぞ」熊田の後ろには睨みつけるように凝視する男性客がいた。美弥都との会話に嫉妬しているのだろう。熊田は、取り合わないように、早急に駐車場に出て、現場に向かった。ナビの必要がないくらいにそのビルは高々と鳥が旋回するシルエットだけの山間の、雨が降って雷で時たま姿を見せる建造物の映像とかぶった。