コンテナガレージ

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論理的大前提の提案と解釈は無言と一対、これすなわち参加権なり 4~無料で読める投稿小説~

「だから、なに?」
「手際の悪さを言い訳にエコノミーフロアで死体を見せ付けるべきだった」アイラは足を組んだ。コーヒーを一口。幅をきかせる酸味。「渡米の日時、ライブハウスの使用不可、ツアー企画のキャンセル。行動の先読みを搭乗にこぎつけたところで興味を失ったとは考えにくい。しかも、客室乗務員は複数搭乗していたわけで、一名がパニックを起こしても他の乗務員の指示を仰ぐことは可能であった。最も重要な死体を見せつける作業を忘れていた、とは妥当性を欠くにもほどがある。タイミングを逃したにしても、そのあと荷物として後部に運んだのです。動かせる状況にはあった、怪しまれつつ客前で披露すれば良い。疑われるのは、私なのですから」
「僕らの前だけだと、口を噤みますよね、そりゃそうだぁ」カワニは感嘆と共に感想を述べた。「しかしですよ、お客さんも僕らと心境は同じくて安易に事件を口走ってしまうとアイラさんによからぬ噂が立つとも限らない、それぐらいの判断はつきそうなものですけどね」
「いいえ、観客は死体を作り出した張本人に仕立て上げられる、とは思っていない。たまたま機内で死体が見つかったのだと思い込む、私のための閉口が私を追い詰めるとも知らずに自分たちを身勝手に犯人像から切り離した出発点に位置づけた、議論と想像に熱を上げる」
「そこまでおっしゃるのなら、犯人を告げはどうでしょう」種田の口調に棘が増す。
「十和田」誰が張ったのだろう、壁のカレンダーが気にかかった。曜日と数字だけのシンプルな構図を見つめる。「彼が首謀者です」
「根拠を明確に」
「乗員から乗務員を除き、ビジネスクラスのお客とより分け、さらには観戦目的以外の搭乗理由をもつ人物たちに選別をする。miyako、山本西條、君村ありさ、あなた方警察四名と保安員の十和田。山本西條さんにとって、"死体"をmiyakoに伝えずにいることが数時間後に打ち明ける壮大なシナリオに水を指す。効果が半減しかねない。君村ありさの不意の問いかけは無視を決め込むべきだった、しかし素直に交換条件に従う。彼女はではない。次にmiyakoさんですが、彼女は誤解を生む行動に出た。私は彼女に殺されかかった、首を絞められたのです。踏み止まり殺害には至りませんが、殺意は本物。死体発覚の後に殺害を企てた、犯人としてはかなりちぐはぐな行動です。人を殺す意味が実に希薄ですし、私を殺してしまえば、死体に付きまとう噂に私が苦しむ状況は失われる。よって彼女も除外。それでは君村ありささんかというと、真っ向から死体の存在をほのめかす、彼女ではありません。発言の時点で死体の存在を知りえるのは犯人を除いて他にいない、よって彼女は除外される、あなた方警察の長引く捜査がなりよりの証拠。また、彼女の席を思い出してください、中央列三人席の真ん中に座る。窓際の歌手二人よりも動きに制約が課せられた。発言に立ち上がって乗客は君村ありさの存在をようやく認識したりアクションを取った。それまで気がついていなかった、両隣のお客も同様に驚いた表情で見上げていた。これは彼女は搭乗から私の演奏までおとなしく席についた証拠、といえる。前もって死体が発見される手はずをすべて整えていた、という場合も確かに可能性としては残されいます」
「仕掛けが台無しだぁ」カワニが言う、おそらく大きく頷いているのだろう。語尾が随分と延びた。
「そう、死体を荷物棚にセットした黒幕の彼女は黙って死体が見つかり、事態の経過を見守ることが取りうる態度であり、自らが公言をしてはならなかった。それは自身の犯行を裏付けてしまう何よりの手がかかり、証拠に採用される。犯人だとは言えない。単に彼女は何かしら不確定の情報を小耳に挟み、機内において発言を敢行した。よって犯人から彼女も除外される。最後に、あなた方警察ですが、鈴木さんという刑事が私のことをよく知っていた、好意的な態度でしたので、彼が人数分のチケットを手配したのでしょう。個人情報を一まとめに、幹事役に抜擢された彼が全員分の個人情報を打ち込み、漏れることなく四名がチケットの獲得を果たした。事後報告だったのですね?」
「予測を構築した理由を言い足せ、それから疑問は投げろ。手間をかけさせるな!」苛立ち、刑事としての責務か、考えられる要素としては……嫉妬が妥当か。アイラは丁寧さを心がけた、なるべく種田の神経を逆なでる意識。