コンテナガレージ

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「謹慎処分の期間に旅行、しかも海外渡航に出てしまっていた。僕は知りませんから」
「謹慎処分のきっかけを作った当人が放つ言葉とは思えないが、お前のおかげで大手を振って仕事は休めた」
「しかし、揃いも揃って部署の面子が署外で顔を付き合わせる、スケジュールはばらばらが一般的ですよ、帰りの車まで一緒って。何でお前は車を借りてんだよ、無料送迎バスでホテルに帰れたのによう」
「……」
「種田もなんか言ったらどう?会話に参加しなよ」
 ハンドルを握る鈴木が彼女に問いかけた。後部座席、相田の圧力を逃がすためだ。
「死体が出現した理由がわかりかねます」理由があるのだ、でなければ座席上部の荷物棚に死体など詰め込まない。
「んもう、その話じゃなくって、旅行の話」
「S市を髣髴とさせる、北海道の降雪を差し引くいた佇まい。規模や物価、観光客と住人の割合と人数は都内の雰囲気が近似。早々に切りあがった取調べは疑問です」
「だから、その事件の話はご法度だってのに。まったくもう、熊田さんもなんとか言ってやってください。後ろの二人に」助手席の熊田は窓を外をただ何気なく見つめる。
 彼女たちは北海道O市署に籍を置く特殊かつ非合理な他部署や近隣署では手に負えない事例を専門に扱う、いわゆる特別処理班なる部署のメンバーである。上司の熊田、その下に三名の部下、鈴木、相田、種田を配する。種田を除く三名は男性で、彼女が唯一の女性署員である。熊田の上に部長が在籍する。ただし、めったに部署に顔を出さない。
 話に出た前回請け負った事件の責任が熊田に課せられた。部署の活動は一時的に、約二週間の謹慎を上層部から言い渡され、自宅待機を命じられていた。二週の余暇は刑事にとって警察を辞めるか、入院のどちらかである。ゆえに、またとないチャンスに彼女たちは鈴木の提案、格安団体ツアーの申し込みを許諾したのだった。ツアーとはいっても行きの飛行機内で催し物が行われるのみで、現地到着後は五日間連続で同じホテルに泊まることを条件に、自由に動き回れる。格安の理由を彼女たちは詰め寄って掘り下げた情報を鈴木からは引き出さず、しかもアメリカ到着後も機内の出来事に関してはクレームをつけなかった。鈴木と相田はともに行動していたようだが、熊田と種田はそれぞれ別々に出歩き、夕方、日によっては深夜に帰還、有意義といえる日を過ごした。
 そんな彼女たちは空港で足止めをくらい、つい先ほど二十分ほど前に警察に解放されたばかりだった。現在は用意されたホテルに向かう車中である。四時間ほどはかかっただろうか。まず、刑事たちが海外への団体渡航、という事態が過去、視察で問題となる経費の不正使用を想起させたらしく、その誤解を解くのに一時間を費やして、さあ、北海道行きの飛行に何とか間に合うと思わせておいて、次はまた別の一団に別室へ連れて行かれ、事件についてしゃべって欲しいと、そして今度は不適な笑みを羽化ブル警視庁の刑事たちが二つ前の取り調べと事件のあらましを種田たちは語り尽くした。
「死体が出てきたことを隠しておいた。どうなんですかね、あれって」鈴木は誰かが受け止めてくれるであろう、放物線を描く問を吐いた。車内は狭く、当然感度は良好に思える。
「死体が出ました、犯人が潜んでいるかもしれません、お客様、しっかり、気を確かにって言えるかよ」億劫がってはいるが、相田は鈴木に対して八割近い高確率で答えを返す。互いを補う間柄、種田は二人が喧嘩をしつつもアメリカ・ニューヨークで五日の長期間をともに過ごせた理由を再確認した。おそろいの土産は確実に買っている。
「テロの可能性だってありえますもん」
「控え室に使われたフロアでもって工夫を凝らす頭と死体を荷物棚に持ち上げる時間とがあって、何でまた一人だけを殺すんだよ。しかも、死体は乗客のリストには掲載されてなかったそうだしな」
 相田の言うとおりだ。死体を機内に持ち運んだ経路が朧げ、種田は静かに眼を閉じて考察にそっと耽った。
「世界経済の重要人物、巨大バンクの頭取とか、ロックスターを支える敏腕マネージャーとか、その後の経済が大きく揺らいでしまう人だったんですよ」
「被害者は日本人男性だ」熊田が平坦に言う。
「となると、荷物棚に引き上げたのは男性ってことになるな」
「そうとも限りませんよ」鈴木が高い声を放つ、ハンドルを離れた左手は低い車内の天井を指す。「荷物棚に自分から入り込んで、中で殺された、これもひとつの可能性ですよね、ね」