コンテナガレージ

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3 ~小説は大人の読み物~

 T-GATEFMは倍以上の高さのビルとビルに挟まれる。
 上司の熊田を先頭にO署の刑事たち一向は地下駐車場のエレベーターに乗り、直接目的階に赴く。地下駐車場の警備員に局内への入出許可を得る、通常は地下から目的階へは専用のエレベータでしか上り下りはできない。つまり、彼女たちはそのエレベーターに運ばれる。
 ラジオ局はどこも、閑散とした雰囲気を示し合わせてるのか、静まり返る幅の広い廊下はおごそかな場面状況にさえ、捉えようによっては感じられる。ここへはmiyako、という女性歌手との面会に無論アポイントなしで訪問をした。先頭を熊田が歩く、相手が警戒心を抱く唐突な問いかけはこの上司が適任であろう、と種田は思う。彼女自身はお世辞にも上手とはいえない、つっけんどんならまだしも、ときに恐怖心を相手に抱かせてしまう。顔が怖い、とも言われたか。自粛した彼女はそうして最後尾を位置取った。方向音痴も最後尾を歩く理由の一つに挙げられる。
 開けた一室に出た。エレベーターを降りて数十歩、人の出入りはここからがほとんどで、歩いてきた背後の廊下は人気が少ない、種田は前の三人の動きに倣う。彼らは立ち止まっている。
 室内はテーブルと椅子が置かれる休憩室のようなつくり、廊下の延長には色を変えた床が正面のドアに通じる。そっちの両開きのスライドドアは重厚な赤茶けた風合いを携え、閉じる、重そうである。
「miyakoさんですね」熊田がしゃべりかけた。左に鈴木、右に相田が広がるので相手が見えない。miyako、歌手であり、数年前までは新世代の歌姫と呼ばれていた。現在では明らかな人気の陰りが窺える、らしい。時勢に乗り、立て続けに繰り出す後発のイメージを継続した変化に乏しい曲ばかりの発表に、長期的な戦略の取り込みが後手後手に回った。悪い時期は世間ではどうやら重なって捉えるそうで、はやし立て盛り立てるお客が別の姫へ乗り換える時期に、よりにもよって運悪く戦略を見直す新しい取り組みを始めたばかりに、心酔しきった固定客まで、その正気を取り戻させてしまい、あろうことか先月のCDセールスは一万枚を越えられない状況であるらしい、これらはすべて相田がネット上で仕入れたデータが元の、種田個人の観測である。
「サインはしないの、あっちいって」
「警察の者です」
「しっつこい。さんざんっぱら空港で話した、勘弁してよ」
「私たちは警視庁の人間ではありません」
「ああーよくある、別の部署の人間ですっていうやつね。実際あるんだ、そういうの」興味が沸いたようだ、miyakoの態度を種田は見逃さない。
「まあ、管轄の異なる部署同士が同一の事件を調べることは珍しくはありません」
「いいわぁ、これから生放送、ラジオの打ち合わせだけど、どうせ事件のことはしゃべるなって言われて、たぶん内容は大幅に変更しちゃうんだろうし、進行表に目を通すだけ無駄なのよ。はああ、ため息ぱっかよ、何であいつばっかりかばってもらえるんだか」
「すいませんが、もう少しボリュームを落としてください。周りに聞こえます」鈴木が中腰になって忠告した。柔らかないつもの口調である。