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ワタシハココニイル2-3

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「意外です」相田は目を丸くした。「もっとこう大胆な人かと想像していたので」相田の中で熊田は無骨で不器用という印象であっただろう。しかし、その印象も数秒前に覆されたのだから信頼性に欠ける。 

 相田は張り出してきた腹回りを擦っていた。熊田は印象をいくつか例に挙げてみる。

「せこい?うん?ずる賢いいや、せせこましいか」

「僕の口からはなんとも……」熊田の自虐に相田はたじろぐ。

 煙が流れる。「やはりここでしたか」種田がドアを開けていた。「事故車両のデータです」

 煙草の煙を名残惜しそうに一口吸って熊田と相田は休憩をおえた。

 廊下と室内の温度差で顔面がほんのり赤みを帯びる一同は顔を突き合わせてデータとにらめっこ、事故車両はメーカーと車種が絞られていたので数はほんの六例に留まる。

「鈴木さんから送られたメールに捜査対象者の氏名が書かれていました。ですが、二例の中には該当しません。おそらく事故には至っていないからであると推測されます」種田は携帯を開きメール文を熊田に見せる。彼女の端末は二つ折りの携帯電話である。最近の使用者は珍しいといえる。少数派の部類だ。

「事故による死亡者は一名か、その他は軽傷」熊田はデータを読み上げた。 

「死亡者は既婚者ですかね?」相田が言った。死亡者は年齢四十歳、男性としか明記されていない。同乗者の有無は記載がないところをみると一人だったと推察される。事件性がない限りは不必要な事項は書かない決まりになっている。

「軽傷か。後遺症を負った可能性もあるからその点も考慮にいれると、調べるのはこの二件か」熊田が呟く。擦り傷やかすり傷は除外された。

「しかし、遺族を訪ねるのは気が引けますね。亡くなってからまだ日も浅いですし」

「私が調べます」種田が進言する。

「面倒は起こさないでくれよ」熊田が眉間に皺を寄せて種田を諌める。

「どういう意味です?」

「不躾な質問をするなという意味だよ」

「事実を伝えるだけですから」

「それが心配だと言っている」

「泣きたいのならその場所を提供するもの警察の役目ではないですか。やり場のない感情は吐き出すべきですし、抱えていては健康を害します」一度言い出したら聞かない種田の性格、ただ彼女の言い分もまんざら見当違いでもないから厄介なのだ、熊田は決断を下す。

「荒療治だが仕方ないか……。相田は軽傷者を調べてくれ、死亡者の方は私と種田で調べることにする。これで文句はないだろう?」

「はい」ようやく種田の圧力が弱まった。放熱を感じるほどの近距離であったことが種田が離れたことで知れる。

 三人は二手に分かれて捜査を開始した。