「私のあの人に、あなたは丸坊主で会いに行けるのかしら。きれいなあなたが必須、それとも単なるあなた?この中間かな、嫌われる、笑われる、無視される、ひかれる、どれもこれもあれもこれも、まるであなたが世界の中心とは思わないのかしら」髪の毛の束、ひときわ多い塊がどばっと。「あの人に選んでもらうわ、あなたが頭を丸めたら聞いてあげる。面会の場を設けるのよ私が、善意で。譲歩も譲歩。悲しそうね。髪は月日とともに生える。女の命、だったらどうしてつめは伸ばさないのかしら、長すぎて生活に支障が生まれることは同等のはずよね」
覆い尽くす髪、切断された髪が明るさを失っているようだ。彼女は,サリーの頭頂部とバリカン、添えた左手を注視する。決して、もう、体から目をそらしはしない。
切るか、考えもしなかった。まさか、髪をそれも坊主に私がかぁ、ミツキは息を止めた。顔を固める、どうしたらいい、決まりきった答え、わなかもしれない、土俵には立ちたいよね、でも、また逆接、たまには意見を突き通してみなさい、私。
彼女は交代をたくらむ内部をと、押し問答に明け暮れる。その間にサリーの頭は見る見る丸みを帯びてきた。なぜだか、刈り終わるまでが回答のリミットに思えた。
女性としての魅力を失う私の登場にあの人は笑うんだろう、それとも暖かく迎え入れてくれるのか、もしくは門前払いで視界にさえ入れてもらえなかったりして……。
女性は卑屈に笑う。もうすっかり黒の独壇場。広がる額は後部へ勢力を伸ばしつつ、サイドにも手をかけ始めた。右即頭部の耳の上が大胆に刈り取られて、私は残忍な光景に目をそらさないことしか抗うすべを見出せずに、身を堅く、まぶたは逆さまの作用からか、開きっぱなしなんだ。
マネキン。浮かんだ、言葉。肘掛にぶら下がる紐が見えた、先端を無意識に折ってしまった、不覚にも。
現れる、バリカン。そして、はずした視線を対象物に引き戻したら、尼さんに姿をかえたサリーがつつましく微笑んだ。
鐘の音。教会の音色。私の番、髪を払う女性が背中を押す、順番がバトンが回った。無言を貫き通す、これも抗うすべのひとつである。
「しょうがない」サリー・笠松は指を鳴らした。とたんに上下位置が通常に戻る。拘束具の圧迫が解除、体は開放された。表情が確認できる照度も回復した、見たくはなかった。サリーは空間に向かい投げかける。「いい加減、降りてきたらいかがかしら。監視は十分悪趣味よ、文字通りカメラを通じて見下ろしてるんでしょ。ランチを食べ損なってた私を救ってくださる、未来の旦那様。あっとごめんなさいね、あなたの前で言うべきではなかったわ」
「顔を出して、結論は出るの?」産毛がそばだった。
あの人だ。