コンテナガレージ

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静謐なダークホース 5-7

「もう、いいかげんにしてよ。あなたの要求は満たされたじゃないの」着替えを済ませた館山が再度の訪問をきつく咎めた。店主は、視線が離れたのをいいことに吊り戸棚の食材を古いものを前に、倉庫から持ち出したあたらしい物を奥に置き換えた。空の籠は、着替えに向かう小川が微笑を浮かべて、店主の手元から抜き取った。彼女はほころんでいた、人のぶつかり合いを愉しむ精神を彼女は有する。自分に危害が及ばないという前提が、展開の知れないドラマに高揚するのか、それもこれは現実。

「あの方が作ったのはただのチョコレートだったわ。最初から騙していたように私は捉えています。それがこの態度だと汲み取ってくれれば、半日を無駄に潰した私の想いが少しはわかっていただけるでしょう」

「彼女はいつも外で店を見張っていた人、間違いない」

「彼女が作ったレシピを再現したけど、あなたが持ち込んだチョコとはまったく別物だと判明した。チョコ作りに使われた器具のすべてを回収、徹底的に調べた結果、私が求める栄養素の欠片も検出されずじまい。まったく、とんだ茶番に付き合わされた」

 私服に身を包んだ小川は店主の隣に立って小声でつぶやく。「茶番って、もう私語ですよね」

「あの人はチョコを作らなかったとでも言うの?芝居とは思えないわ」館山は事実に反論をぶつける。

「作りましたよ、当然に。作業工程も凝っていたでしょう、一般的な作り方から見れば。彼女は盗聴して、見張っていた事実と渡したチョコと盗聴に及ぼうとした感情があいまって、あのような告白を踏み切った」比済は笑う、ぞっとするような笑みだ。「結ばれない恋とも知らずに。だって、同性にどうやって愛を伝えて、それが叶うっていうのかしら。世界が過去がどうあれ、常識が覆らないこの国で、無謀にもほどがある。店長さん、あなた知っていましたね?あの方が作ったチョコではないことを」

「もし仮に知っていたとしても、それを確かめるすべはないのでは?」店主は言い返した。

「あなたが正直に告白なさればいい。単純なこと」

「私の前に現れないという約束は簡単に破られました。そんな人に真実を話す気にはなれない」

「嘘を教えたのはそちら」