コンテナガレージ

仕事(フリーライター)、日常、小説、その他諸々

MENU

夢が逃げた?夢から逃げた?2-1

「ただいま帰りました」美弥都はバッグから渡せなかった豆を店長に手渡す。

「触井園さん、留守だったの?」店長は遅れて後ろの刑事に気づく。「ああ、刑事さん。いらっしゃい、どうぞ」

「どうも」軽く会釈、対面した今の瞬間で事情を話すべきだったと後悔する熊田はカウンターに腰を下ろした。テーブル席には男が二人、開いたノートと向き合っていた。

「触井園さん、亡くなったようです」エプロンをつけながら美弥都が言った。

「ええっ?亡くなった?」響く音声を抑えて店長はそっと聞き返す。「だって、この間だろう?」

「あの、店長さんに、その大変申し上げにくいのですが……、日井田さんに少しだけ事件についてお話を伺ってもよろしいでしょうか?」

 店長身を乗り出して熊田に顔を近づけ、小声で言う。「事件とか警察とか、物騒なワードは言わないでください。お客のネットワークでうちの店に警察が出入りしてるって噂が流れてるんです。誰が好き好んでそんな店にきたいと思いますか」

「警察を見たことのない人が来るのでしょう」とぼけたことだとはわかっていたが、熊田は口にした。

「足を運んでくれるなら大歓迎ですが、普通は嫌がって来ません。とにかく、ここで事件の話はよしくてださい、いいですね」

「急を要する事態なのです」

「彼女に聞かなくても自分たちで解決してくださいよ。それが仕事でしょう」

「店長の仰る通りですが……」

「認められませんっ」店長は警察の申し出を断った。「ご注文は?」

「……コーヒーを一つ」

「かしこまりました」熊田はため息をついた。あとひと押しそれも指先でほんの僅か力を込めれば、真実に手が届くというのに、寸前のところで邪魔が入ってしまう。落ち着くために、まずは煙草だ。

 しばらくして、テーブル席の二人といれ違いに見慣れた顔が登場した。鈴木と種田である。

「コーヒーを二つ」鈴木は躊躇いもなく熊田の隣に座った、種田は鈴木の隣に音も立てずに座る。

「相田はどうした?」

「体調が悪いみたいで、病院に行きましたよ。昨日の夜から熱があったみたいです。熊田さんに了解をとるべきでしたか?あらためて捜査を……」熊田は鈴木の口をふさいだ。店長の鋭い視線がささる。

「いいか、あの店長の前で事件の話はするな。今さっき釘を刺されたばかりだ。いいか、もう少しであの人は休憩に入るから、それまで待て」

「ぶはあ、はあ。死ぬかと思いましたよ」鈴木は窒息寸前から解放される。

「死んでしまえば、死ぬとは思えません」

「揚げ足を取るなよ、殺されかけたんだから」鈴木は頬をふくらませて言う。だが、種田の反応は薄いというか無表情である。美弥都が熊田の前にコーヒーを運ぶ。刑事たちの会話がピタリと止まる。美弥都には慣れた現象。お客の会話は店員の登場で中断される、正確には自主的に内容を聞かれないように止める。

 鈴木と種田の注文も運ばれると、熊田の予知が的中し店長がエプロンを外した。入り口、ちょうどレジの前で熊田から声は漏れ聞こえてくる程度であるが、内容は聞き取れた。休憩に入り、営業時間内に銀行へ振り込みに行きたいとのことで革のセカンドバッグを持ってダウンジャケットに袖を通しつつ、外出した。

「出て行きましたね、チャンスですよ」鈴木が囁く。

「お前が聞いてくれ」熊田は気が進まなかった。真実の追求は美弥都の無風の気配に気おされて気持ちが前に進んでいかない。