コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

夢が逃げた?夢から逃げた?2-3

「異なるのでしたらすでに情報として警察がその点から調べを進めているはずですが」反対に美弥都が質問で返す。

「種田」

「報告書にはそのような事項は書かれていません」

「だそうです」

「納得出来ませんよ。つまり、触井園京子は殺されて血を抜かれて自宅に運ばれて、リビングに座らせて、あたかもその場で殺害されたように偽装された。待ってください。他で殺せたのなら、死体をわざわざ家に持ってくることはなかったんじゃないかと思うんです。そうですよ。だって、彼女人付き合いもなくて、だったら埋めるなり、海に沈めるなり、発見を遅らせる方法はいくらでもありますよ」興奮して鈴木が中腰で熱弁。顔は両サイド、そして正面の美弥都に忙しく訴えかける。

「見つけて欲しかったのでしょう。ねえ?日井田さん」熊田は片目で美弥都に投げかけた。

「見つけて欲しかったのは、見けることで見つからなくなるからです」熊田の表情があからさまに色をなくす。

「どういうことです?」鈴木が子供のように尋ねた。

「ある描き方があります。これは上に色を重ねて描く過程が奥行きや陰影、深みを現実のそれ以上に忠実さながらキャンバスに映し出す。必要だった最初の、はじめの色たちは完成ではほとんどのその存在が認識できない。要するに、縁の下で、目立たず、でも無くてはならないもので、必要性がないと判断されて省かれて、そこで改めて気づいて。この事件もそうなのかもしれません。気がついて欲しいと願ってる人がいるように私は思います。隠そうとすれば完遂できたのに、わざわざ謎を残して興味を引いて注意が及び、明らかにされるのを待っているのですよ。でも辿った先に真実は用意されていない。発見してしまったら最後、覆い隠すのでしょう」

「しかし、おっしゃるとおりならば、なぜ彼女だったのです?」

「刑事さんが触井園さんを訪問し、遺体を発見した。彼女に聞かなければならないこと、または彼女が何らかの事件に関わっていると思い、やってきた。であれば自ずとたどってきた道を戻れば良いのでは?」

「M車の事故で軽傷者だったのが触井園京子です!」鈴木は立ち上がって天板に手をつく。カップがカチャカチャと微振動。

「M車関連で触井園京子と不来回生が死亡。残ったのは、理知衣音だ。彼女の夫が事故で亡くなっている」熊田は美弥都に関連事件のあらすじを言ってのけた。

「変ですよ」声と共に落とした心拍数の鈴木が席に着いて言う。「だって、恨むならM社です。車を販売した会社に怒りの矛先が向くのが当然の成り行き。亡くなった二人は被害者同士、云うなれば戦友みたいなもの」

「……自分たちだけ助かった」種田がボソリと呟く。「なぜ、私の夫だけが命を落としたのか。他の人間が生きているのは我慢がならない。こういった理由があげられる。おかしくはありません、歪んだ理由と言われそうですが、正当な理由を私は今まで聞いたことがありません。理由はどれも正確であってその反対でもある」

 「妥当ね」表情が崩れない種田の横顔に過去の自分を見た。怯えや恐怖を作り出しているのが己であると認めずに戦々恐々を常に持ち歩き、戦場で取り囲まれないために気取っている。

「日井田さんはどう思われます?」熊田は問いかけた。

「頭に思い浮かんだのならば実証するために行動を起こすべきですよ。コーヒーも冷めてしまいましたし、まあ、おかわりを楽しむ余裕がそちらにあればの話ですが」

「ごちそうさまでした。出るぞ」

 熊田に続いて種田も席を立ったために、残された鈴木がやむなくコーヒー代を支払った。熊田が払っていない、それに種田も後を付いて車に乗り込んだのだからおそらく想像は正解だろう。

 ちらつく雪がガラスに映っては消えをいくどもやり直していた。

 車が煙をくゆらせてのっそりと意思を持ち始めたかのように熱と鼓動を湛えた。