コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

今日は何の日?4-2

「まだ十代でしょう」

「もう、おばさんですよ。この歳にもなれば。あっと店長にこれは、その、言っているのじゃなくってで」

「気にしてない。といって気にしているということでもない」

「お客さんに出すのって、もしかして一品だけですか?」小川は厨房に出された食材が少ないことを感じた。

「そう。どれだけ食べたがっているのか、もれ聞こえる声を拾うおうと思って」そうか、私は比較的お客に近い立場だ、レジもホールもそれから厨房も兼任する。しかし、店長は厨房から離れられない。聞こえてくるのは微かなお客の声だろう、ただし、悪態と非情な意見が大多数である。

「だとすると、明日のランチも豆に必然的に決まるってわけですね」

「聞こえたらね。あとは、そうだね、一週間のランチメニューを見返して、明日の気温を考慮に入れる」店長は殻をむき終えた。小川に指示。「冷蔵庫の蝦の下処理をお願い。茹でて冷水でしめて、水気を切ってほしい」

 私に指示を与えてすかさず、次の行動。店長はお湯が沸く鍋に水に浸したグリンピースをざるにあけ、ぐつぐつ茹でる。タイマーで大まかな目安、そして腕時計でも時間を計っている。店長は何より時間に細かい。茹で上げる時間で味が変わることを小川はこの店で学んだ。もちろん、私が店長の行動から学び取ったのである。

 グリンピースを茹で上げた鍋に今度はスナップエンドウをくぐらせる、どちらもエンドウ科であるが、品種は若干異なるはずだ。スナップエンドウは数十秒を湯にくぐらせる。私は店長がソラマメを剥いていた位置に移動したので、シンクへの店長の導線は確保されている。

 味付けはマスタード、オリーブオイル、レモンの絞り汁、塩、その他の調味料は蝦を茹でている間に混ぜ合わせてしまった。小川は、水気を拭いた蝦を店長にバットごと差し出す。まるでともに台所に立って休日の朝早くに起きて、朝食を二人で作っているみたいではないか、小川は倉庫から米の袋を、込みえ上げる笑いを堪えて、胸に乗せるよう抱え戻る。だが、そこでさっと現実に引き戻された。館山リルカが出勤してきたのである。

「おはよう」館山はクールなあいさつ。

「おはようございます」

「どしたの、いつもの、どうもーとかいう、無駄な空元気は止めたんならそれはそれでありがたいけど」

 小川は館山の背中に向かって顔を突き出してやった。