大豆をザルに上げて、軽く揉んで水気を切る。水分は取り切りたい、水っぽさは時間とともに出てしまうので。ここではまだ、大豆で何を作るかは決まっていない。過去にのっとり、レシピを考案するしかない。腕組み。うーん、どうしたものか。大豆の形をそういえばと、警告者の言葉を思い出す。形がいけないのか、だったら潰さないように形を披露しよう。それが良い。形を残すとなると、潰して整形するのは除外、他の食材に詰めたり、埋もれたりしてしまっては、登場の派手さを表現しにくくなる。悩みどころ、立ち止まる店主を小川が何度も盗み見ている。
タイミングを合わせて、視界の端の動きにあわせたら、やっぱり彼女はこちらを見ていた。仰け反って、菜箸が宙で、不規則な動き。彼女は、揚げ物をしていたのか、利用するか。
ありがとうと、彼女に言い添えて、再度小麦粉を使う。釜の温度を一旦下げて、生地のふくらみを確認。真後ろの、館山は淡々と手技に没頭。既に、いつもの開店時間が過ぎている、お客が通り過ぎて、中をのぞいて、準備中の店内をありていに覗く。
冷蔵庫から水に晒したレンコンを良く水を切って、細かく切り、水で溶いた小麦粉に大豆と一緒に入れて混ぜ合わせる。桜海老を散らして、ナスがあがった油に投入。これでメーンの一品が完成。時間が押し迫る。外から眺める時間はないかもしれない。
店主は、副菜の味をチェック。小川のナスは油の吸い過ぎが胃にもたれるので、却下。
館山の大根のサラダを採用する。
次はナポリタンだ。とっくに館山は茹で上がった麺に、軽く油を振っていた。ピーマンにウインナー、たまねぎを切る。ナポリタンは、注文を受ける予測を立てて、店を開ける五分前に取り掛かる。そして今度は、醗酵させた生地を引き伸ばす。そこに炒めた具材を入れて、包み込む。時計を見る、時間はもう残り、開店まで二十分。
「見張りは延期にしよう」店主は諦めの口調で本心を打ち明けた。
「大丈夫ですか、変な人たちが来るかもしれない」ホールで国見が不安げな表情で言う。
「だったら僕が外で応対するよ、それなら文句はないはず。ナポリタンは館山さんに任せたから」
「私がですか?」館山は黒目を大きく、自らに指を指す。
「できない?」
「いいえ、できます。作ります、やらせてください」
「決まりだね」
「店長……」国見はまだ開店に不安があるらしい、店主は微笑を浮かべて言う。
「狙われるとしたら、店の責任者。最前列にいれば、君が代わりに襲われたり、何か言われたりすることもない」
「店長、男らしいです」小川が手を叩く。
開店。店主が注文を聞き、国見が会計。襲われた時の為に、列が並ぶ左側に店主が立つ。
小川は、容器に入れたランチの運搬、そして国見がナポリタンを作るという四人の形態であった。
冷え冷えとした日中、放射冷却が熱を奪う。
順調にお客を裁くかに思えた列に、早朝に出会った女性の姿を店主は見とめた。