コンテナガレージ

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蒸発米を諦めて2-1

 ディナーが盛況だったのは、営業時間の一時間前までで、終盤は明日以降を自宅で過ごすために、お客の足はぱたりと止んだ。客の出入りに応じて最後のお客が腰を上げた時点に終営を決めた。そのため、通常よりも三十分早く、店内の掃除、食器の洗浄、水分のふき取り及び定位置への返還、各テーブルの調味料、それに紙ナプキンの補充、厨房の清掃、最後にダスターの洗濯、乾燥が終わったのが午後十時半過ぎである。

「コンビニ弁当は大変な打撃ですよ、主力商品の値上がりは客足を遠ざけますね」館山は、長い足をクロスさせてシンクに体重を預ける。丁寧な言葉遣いは年下の小川ではなく、店長に言っている。投げ掛けているのだろう、店長はそのように感じ取る。

「それを言ったら、どの飲食店だって値上げせざるを得ないでしょう」うんうんと、小川は腰に巻いたサロンを、寒さを視覚に訴えかける寒冷地での濡れたタオルの旋回に似せていた。店長は二人の間を通って、冷蔵庫を空け、鶏肉の柔らかさを確かめる。

「店長、五キロのお米を何に使ったんです?これ、店長が書きました?」高く重なる皿の反対側、カウンターの椅子に座る国見が仕込み時間の突発的なアクシデントを見つけた。店長は、冷蔵庫を閉めてホールに出た。

「一般のお客、ライスの注文に換算して米を五キロ売った」

「これでは明日のディナーでお米は底をつきます。後どれぐらいお米は残っています?」怒っている。国見や小川、館山に今後、白米が無くなった場合の行き先をまだ店長ははっきりその展望を伝えていない。一つだけ明確に言えることは、米に頼らないという方針である。そもそも、和食や定食を提供するスタイルによって必然的にライスの量が増したに過ぎず、ライスを取り入れないメニューを考案、実施すればなんら問題は生じないのだ。

 店長は小川に視線を送る、炊飯は彼女の担当。「残りはそうですね、ニキロ弱ですかね。ディナーで一回、新たに炊きましたから」

「もう、どうするんですか。来週からライス抜きでお客さんにどうやって説明をしたらいいのか、はあ、気が重い。ただでさえ、最近のお客さん、気が立っています」国見は非情な胸中をボディアクションを交えて訴えた。

「あらかじめ店先にライスの残量を書いておこうかな」

「炊飯器のスイッチを入れるたびに私が書き直しますよ!」名案を思いついたように一つ厨房で小川が跳ねた。

「来週まで何が何でもお米が食べられるお店だってアピールしないと、この先が不安です」国見は、ライスが提供されない店にお客は足を運ばないと思っているらしい。