カウンターに知り合いの顔が三つ。窓際の席、カウンターに座るお客の背中が見える側に、腰を落ち着けた。部長の背後は壁である。この店は居心地がいい。音楽もうっすらと流れる音量で、室温も適切、暑くもなく寒さも感じない。窓は三重のガラス、間に挟んだガラスが角度を変えると存在を確認できる。
グラスに入った冷たい水とおしぼりが運ばれた、部長は美弥都にコーヒーを注文した。いくつか豆の種類や淹れ方がメニュー表に書かれていたが、シンプルな表記のブレンドコーヒーを美弥都に告げる。
声とリズムを変えて発声した。声だけで有名人は市民に存在を気づかれるというが、聞き覚えのある声が決め手ではないだろう。声と外見、それに話すリズムを判断の基準に据えている。勝手な判断であるので、汎用性は期待できないが、多用する言葉や息継ぎに、間の取り方は声質の類似性を上回る。
三人はこちらの正体に気がついてはいなかった。変装は十分に機能している、部長は確信を強めて、彼らの会話に耳を傾けた。
「拳銃を所持していた言い分を運転手は打ち明けたのですか?」美弥都が尋ねる。運転手とはI臨港バスの運転手、黒河のことだろう。部長は、グラスを傾け、知覚過敏を痛感、水を飲む。
「ガンマニアの一点張り」鈴木はあきれたように言い放つ。「黒河の言うように部屋にはモデルガンが大量に保管されていましたよ。だけど、飾られていないのがちょっと引っ掛かります」
「対象物を撃って本来の銃としての役目が完遂。飾るのは、機能に反しています」美弥都が返答。
「飾るだけで、使わない、モデルガンで遊ばない、完全な鑑賞物としてフォルムや光沢、機能美などを愛でるのは、理解できます。しかし、その、射撃の道具をダンボールへ無造作に投げ入れたような保管方法はいまいち納得に欠けるんですよ」
「何者かが仕組んだ」熊田がつぶやく、タバコの煙が立ち昇る。
「そうも思ったんです。だけど、モデルガンの所持を彼は認めた。うーん……、拳銃も彼が引き抜かなければ、僕たちは調べるつもりなんてなかったんですよ」
「そちらのお二人は違うみたいですけれど」美弥都は手元に注いだ視線を熊田と種田に送る。
「まさか、彼が犯人だとは思っていませんでしたよね?」
「拳銃所持か、それとも樫本白瀬と焼失遺体の件か?」熊田がきいた。
続きはまた明日。
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