「両方です」鈴木はカウンターのテーブルに乗り出し、真ん中の種田をよけて熊田に高らかに応えた。
「拳銃の所持は予測外の出来事だった。所持を知っていれば、一旦安全を確保して、外に連れ出す。距離の近い室内で発砲されては、対処の仕様がないからな。それにだ」熊田は言葉を切る。「黒河が樫本白瀬と顔見知りだという確証は得られていない。バス内部の状況説明は黒河と山遂セナの発言のみ。二人が彼女を見たと言えば、真実になりうる」
「駅のカメラには彼女の姿は映っていました」鈴木が反論をこめて言う。
「それもあらかじめ駅に到着していて、バスの到着を見計らい、改札を通過したかもしれない。可能性の問題ではあるが、そういった見方もできなくはない」
美弥都がコーヒーを運ぶ。部長は軽く手を挙げて提供のお礼を態度で表す。香りを楽しみ、部長はカップに口をつける、普段の癖が表出して正体を悟られないために、タバコは控えることに決めた。少々物足りないが、タバコを吸わないコーヒーの摂取は新鮮に思え、非日常の観測を試す。
「日井田さんは、どう思われます。黒河さん、ああっつとバスの運転手ですが、その人が一連の犯行を企てた人物と考えられますかね?」鈴木は両肘をテーブルに載せ、カウンターに戻った美弥都に犯人の断定を求めた。明らかに趣味の範囲、捜査は年末で打ち切られていた。
「手引きした人間と手を下した人間、裏で操る人間の姿がどうしても浮かびます」
「一人ではやはり犯行は難しいですよね?」
「カシモトシラセという人物の殺害と放置は可能、拳銃の所持及び発砲未遂も彼、残るは、遺体の搬出と焼失です。最後の行動は警察の協力者が必要でしょう」
「遺体安置室は厳重に警備、一般人が中に入れるとは、はい、思えません」
「動機は?」種田がしゃべった。
「そんなものが必要ですか?あなたらしくない発言ですね」
「すべてをわかったような顔を見せていたから、聞いたのです」
「そうね、あえて言えば、商業施設完成に反対の意見を持つのでしょう」
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