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手紙とは想いを伝えるディバイスである3-2

「非効率じゃないのかな、と思って。いやあ、おせっかいだったか」

 社ヤエは無言で睨みつけるだけに留めた、取り合うべきではない、相手のペースには乗らない、意外と冷静な彼女。女性特有の涙と感情の解放は落ち着くための手段なのかもしれない。ようは、泣いているその瞬間は冷静に次の行動を検索しているんだろう、と一般的な女性像を考察。彼女に対して、場を見守る安藤アキルという人物は、弱腰なのか、あまり感情が表れにくいタイプ。一点を見つめる視線はどことなく女性的なニュアンスも感じるが、中性的な印象に留めておこう。

「仕事については、仕事場とこちらだけを行き来するという約束ならば、戻ってもらっても結構です」熊田は三人の明るく輝きだした気持ちを一度断ち切る。「しかしです。不審と思われる行動を選んだ場合は、即刻有無を言わさずに、拘束しますので」

「それって、つまりですよ」安藤アルキが恐々きいた。「僕らが容疑者だと思ってます?」

「もちろん。あなた方は発見者と容疑者の二つの面を持っている」

「同時に見つけたのに容疑者っていうのは解せませんね」武本が慣例に習うように肩を竦めた。

「いくら同時に見つけたとしても、あなた方のそれまでの行動をまだ伺っていませんので。先ほども言いましたように、可能性の問題なのです」

「じゃあ、低かったら私たちは疑われないの?」社は教師に質問するように尋ねた。

「いいえ。可能性の低さであっても、疑いは晴れずに残るでしょう」

「だったら、全員疑っているってことじゃないですか」今度は安藤がとがって口で不平を述べた。三人の発言が交互に順番を守っているのは実に面白い光景だ。

「殺害の方法とそこに至るまでの過程それに犯人が判明しない限り、申し訳ありませんが、皆さんは容疑者として残されています。しかし、身の潔白をご自身の仕事と天秤にかけるのはあなた方です。私はここにいますので、時間が空けば、事情を話す、打ち明ける機会は設けます。こちらもある事情で警察の到着が遅れています。あまり強くはいえないので、現時点で取りうる最良を提案しているまで」美弥都の口調と思考のプロセスを借りると案外言葉がスムーズに口をつくのだと、熊田は我ながら発する言葉の違和感になじめないでいたが、三人の渋面を見ていると、私が日井田美弥都に抱いた表情から彼女の聡明さとセットの顔立ちと立ち振る舞いを引いた発言力の影響が正確に読み取れた。

 熊田の発言に三人の容疑者たちは、戻ってくる約束を結び、会議室を後にした。熊田は喫煙室の場所を聞いておけば、と悔やんで、一人会議室の無意味に重厚な革張りの椅子に座って、事件の概要を精査した。時刻は午後の一時半。端末で橋の崩落現場のニュースを確かめる、当分種田たちの応援は望めない、再確認を自身に言い聞かせて、ゆっくりと立ち上がり、室内をあてもなく歩き、物思いに耽った。会議室の扉が開いて、もれなく情報と新事実を運ぶ人物が、訪れるまで。