施設が完成、開業の暁には、人が押し寄せるだろうとアイラは予測を立てていた。数年は続く。だか、現状の把握は常に客観的な目を持ちつつ、事業を行うようにと、助言はしたつもり。どこまで忘れられずに息が続くのか、それも、もう彼女は興味の対処を外れている。
言葉は覚えているものだ、我ながらすらすら口をついた久しぶりの日本語。気分は落ち着いたように思えた。日本の言語がそういった感覚に作用したのかもしれない、アイラは窓に映る口元で日本語を話した。
「お姉さん、寝ないの?」隣の少女が重たい瞼をこすって語りかける。
「眠るわ、もう少ししたら。うるさかった?」
「ううん。お尻が痛くて起きたの」
「そう」
「お姉さん、お話できるんだ」
「ええ、できるわ」
「さっき、練習してたもんね」
「見ていたの?」
「たまたま」
「あなたは、どこへ行くの?」
「アメリカ。お姉さんは?」
「途中で飛び降りなければ、アメリカね」
「お仕事?」
「ええ、あなたは?」
「引越し。パパのお仕事についていくの」
「そう」
「お仕事は楽しい?」
「そうね、私が選んだ仕事だから」
「アメリカってどんな所?」
「明日にはわかるわ」
「面白い所って言わないんだ、どうして?みんな楽しくてわくわくするって言うんだよ」
「だって、あなたはまだアメリカに行っていない」
「私が決めていいの?」
「あなたは誰?」
「私。あなたは誰?」
「私」
少女はにんまりUの字に口を変形させて、毛布に包まった。
アイラは窓を閉めた。
瞼の裏のもう一つの闇を作って、機能を遮断。
再起動だけの記憶を残し、これまでをリセット。
久しぶりに心から休めそうな気がした。
おわり