コンテナガレージ

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ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって3-5

 種田は手元に重なったパンフレットを指した。

 店名が入ったポールペンを透明なペン立てから抜き取った。

「ここに端末代の月賦制度と書かれてますが、具体的な説明を。月々に料金がこれ以上増えてしまうのは、困ります」口調を多少大げさに逼迫さを強調、ただし手元はすらすらと言葉を書き付ける。

 これから尋ねる質問にイエスならば、返事の前に一つ頷き、ノーは二つ頷く。

 パンフレットを沢木が見やすいよう回転させた。「ここですよ、書いてありますよね?」

 彼は、パンフレットと種田とパンフレットに視線を移し、二往復目でぐるりと回した瞳を定め、こっくり頷いた。絡んだ痰を喉を鳴らし、声を整える。「……ご、ご指摘の月賦という制度は、月々の利用料金に端末代を二年分、つまり二十四ヶ月で割った金額を上乗せて支払うということです」

 種田は書き付ける。

 支店長の行方は隠しているのか?

 真一文字、顎に皺を作る諦めた表情、目を閉じて沢木はしぶしぶ頷いた。

「なぜ二年区切りなのですか?一年でも三年でもなく」

 それは会社の上が指示を出しているのか、はたまたブルー・ウィステリアの指示か?

 一つの頷き。

 種田はペンを走らせる。ブルー・ウィステリアの文字を丸で囲った。見つめる。

 頷き。

「応えられませんか、おかしいですね」

 沢木はハンカチで汗を拭う、濃紺に黄土色の幾何学模様がちりばめられてる。

「……二年分を私どもが負担をさせていただき、お客様の月々のご利用をなるべく小額に抑えたシステムです。三年の期間ですと、回収するまで期間内に支払いの遅れが生じる、加え全額回収の割合が極端に低下する過去の統計を総合的しますと、二年の期間が妥当であると定めた次第です。はい、言葉が足りませんでした、今後は、はい、前もってお伝えします」

 視線を感じた、二つ隣の席で接客の合間に、こちらの動向を窺う店員がいた。稗田真紀子ではない、彼女と同年代ぐらいの中年の女性である。監視役が内部にいてもおかしくはないか、種田は覚えてくださいと、パンフレットに文字を書き、同意を得る。端末の番号を書いた、そして、PCに表示してある私の番号のアクセスを禁じてください、と続ける。間が空いて、了解の頷き。

 種田は大げさに席を立つ、手を差し出し、カウンター内の端末を求める。

「新しい機種はパンフレットにあるのですね、家に戻って検討します。すぐには決められませんもの、催促のハガキの通りに今月末までには、たぶん、決まると思います」

 端末を受け取り、店舗を出た。外はなにやら騒がしい人の流れが南の方角に出来上がっていた。