コンテナガレージ

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手紙とは本心を伝えるデバイスである1-1

 一F 四月二日

 熊田の予測である鑑識の到着予定時刻は既に一時間をはるかに超えて、検視から導かれる犯人の確定に熊田の期待が薄らいだ。一階の食堂に安藤アルキの姿を見つけた、声をかけることは躊躇ったが、あちらはこちらの様子を何度か盗み見ていたのは確認が取れていた。タバコの消費に対しての収穫の少なさは壊滅的な状況と言わざるをえない。非情だ。熊田が捜査の合間に挟む喫煙は、得てして捜査方針の考察のため、一呼吸置くためにブースに隠れ、息を潜めるのであるが、今日は事件の概要を纏め上げる初期段階で既にタバコに手を伸ばす。もちろん、一人の捜査で自由が認められたことも大いに関係している。

 外は薄い雲が延々と伸びている。日が陰ると寒気が襲い、屋内でも肌寒さが感じ取れた。草がなびいて電線がたわむ海沿いの道路は寂しげにも見えて、では楽しそうな風景を殺風景な沿岸の土地で抱くのかといえば、返す言葉もないだろう。

 武本にはメールを送っていた。各自仕事に忙しいとのことで、解散前に名刺をもらっていたのだ。届いた返信は熊田が喫煙室に入って一時間後。どうやら、個人の端末には転送されない設定らしく、彼がデスク戻り、メールを返したのだろう。"仕事の目処がつき次第、時間を作る"、という返信である。おかれた立場を履き違えているようだ、自分を容疑者と到底、夢にも思っていないらしい。現場に居合わせる大半の人間は、自分を除外して状況を捉えようとする。中には、自分が容疑者として成立してしまう環境下でそのことをはっきりと正直に公言する人物もいないではない。

 時間を見計らって熊田は武本タケルに連絡を入れ、約束を取り付ける。

 午後四時に仮眠室を出た彼と一階の食堂で合流した。彼は起き抜けのだるそうな重たい瞼で、一階に姿を見せた。武本はコーヒーとどら焼きを購入して席に着く。熊田はカレーを注文し、武本の対面に腰を下ろした。

「発見時に、会議室のドアをあなたが開けたのでしたね?」

 目を擦る武本はグラスの冷たい水と温かいコーヒーの温度差で目を覚ます。「はい、そうです。私が手をかけました」

「ドアが開いているはその時に知ったのですか」

「ドアはしまってましたよ。開いていたのは鍵ですよ、刑事さん」

「会議は三人が集まっていた、もっと大勢が集まる会合を会議というではないのでしょうか。少な過ぎるという印象を私は持ちました」

「ええ、それは私もですよ。たぶん普段なら十人単位で集められる。ただ、私も毎回会議に参加しているわけではないので、その点は他の社員に聞いたほうが正確な情報が集まります」武本は口を押さえあくび。腕にはめた時計で時間を確かめる。

「まだ、仕事が残っているみたいですね」