コンテナガレージ

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ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって3-4

「どのようなことでしょうか?」

 種田は顎を引いた。「支店長の所在がここ一週間知れない、というのは事実でしょうか。しかも、失踪が発覚した前日にブルー・ウィステリアの近辺でこちらの店員と支店長が一緒にいた、そのような証言を掴みました。こちらではブルー・ウィステリアが発表した新製品を取り扱っておられるようですから、盛大だった記念パーティーに支店長が足を運んで当然といえる。支店長の行方に心当たりがあれば、お聞かせください」種田はそっと警察手帳と取り出し、胸元に収めた。マジシャンのごとく、さっと引っ込める。

「……私、私は何も知りません、聞かされてもない」沢木は顔を近づける、口元に手を当てた。小声で話す。「支店長代理といいましたよね?私は派遣され本社から命じられるまま、本職を全うする身分、単なる補充要因です。あの、うしろ、防犯カメラで取られてます。あなたの右斜め後ろ、入り口から見て左上です」わざとらしい張りのある声を発して沢木が音声を戻した。「……髪の毛のゴミが、植物の種でしょうか、最近よく服についてしまうんですよねぇ、ははは」

 沢木の作り笑いが終わりきる間、種田は状況を振り返る。カメラを気に掛ける支店長代理、派遣されたという告白、そして助けを求める稗田真紀子の振り返り……。そしてブルー・ウィステリアに隠し切れない動揺と反応を示した沢木の顔色。ごまかした接触と聞き取りを恐れる小声。事件との関連は疑われる。しかし、沢木が自らの関与を嫌ったのは、無関係を装う小心が元の態度であるのか、それとも一枚上手に彼に無知を演じさせた支店長の失踪を問いかける私のよう訪問者を跳ね除ける防衛機能の役割なのか……。