コンテナガレージ

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今日からよろしくどうぞ、不束者ですが5-5

 車に乗り、平原を走る、山中であるため、多少の傾斜を走行時に感じた。遠くから見るのとではかなり印象が異なった種田である。しかし、傾きは背後のプレハブが視界に消える急な段差を降りた辺りから、さらに平らな空間が広がり、かつての牧場小屋の扇形のフォルムが姿を見せた。内部はひんやりと空気が低下、鈴木はくしゃみを連発する。

 斜めに飛行船の船体が出迎えた。乗船室は口径の大きなタイヤを配した台座のような運搬機に乗る、おそらくあれで飛行場所まで引っ張るのだろう。船体は横が約七十、縦が十、幅が十五メートル。機体にブルー・ウィステリアのロゴや新商品の広告の文字は見当たらない、銀色が鈍く光っているのみだった。

「こちらの倉庫の鍵はどなたが管理を?」種田はきいた。

「私と舞先さんだけです。鍵は事務室にかかっています」

「ほかに頻繁にではなくとも、こちらに出入りが可能な人物は?」

「いいえ、取引先で知っているのはガスの補充に来る業者ぐらいで、郵便などは事務室に届きますし、倉庫までは事務室の前を通らなくては辿り着けません、……常に外に目を光らせているとはいえませんけれど」

「先ほど、倉庫の扉は内側から開閉したように見えました。外からも開閉は可能ですか?」

「いやいや、それは無理ですよ」倉庫を扱う者にとっては当然、周知の事実らしい。飛田は乾いた笑いを届ける。「電動式の機構を組み込んであります。以前は手動でこう、チェーンを引いて開け閉めをしてましたが、太陽光パネルとバッテリィが安く手に入ったもので、そのときに改修を行ったんですよ」

「しかし、夜間にもし仮に倉庫の扉を開けて、飛行船の操縦者が機体を外に運び出せば、あなたに知られずに飛ばせますね」

「私が嘘をついているとでも?」気に障ったらしい、飛田の眉間が中心に集まる。

「あくまで可能性ですよぉ」やんわり鈴木がフォロー。

「もう一つ質問を」種田は船体を見上げていう。「広告としての利用はこれまでも取り組まれていないのですか?ただ、お客を運ぶにはもったいない。空に浮かんだものを人は正確に捉えようとします」

「時代です」飛田はたっぷりと間を空けた。種田と鈴木は彼の言動を追う。「広告費用はネットに割かれたようで、ここ数年の広告件数はほぼゼロに近い。たまに舞い込む仕事は短期的なイベントの告知ぐらいなもので、定期的に人の視界に植え付ける不思議な空に浮かぶ乗り物をもう、若い人は眺めないのでしょう。皆さん、手元の端末に忙しい」消え入りそうに語尾がかすれた。