コンテナガレージ

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本日はご来場、誠にありがとうございました2-5

「伝えたときは事実でありました」

「なんら落ち度はなかった、そうおっしゃりたい?」

「いいえ、初めて飛行船協会を訪れた際に飛田の正体を見破れるでしょうか?」

「尋ねたのは私です」

 不穏な空気を察して鈴木がフォロー。「正直、事件の翌日に飛行船協会の所在が浮かび上がったのはサイト上に蔓延した目撃情報が元です。現場周辺の聞き込みが禁じられて、僕らの打つ手が、停電と飛行船ぐらいだった。停電は電力会社をS市警察が調べるでしょうから、死亡時刻前後の屋上を望める位置は、周辺のビルか、上空しかなかった」

「なるほど、かろうじて理由は成り立ちますかね」

「店長さんの納得はこの際取っ払って、あの、我々の質問に明確に、僕にもわかり易く答えてくださると、ありがたいなあと……」ぎこちなく、気遣いを湛えた鈴木が訊いた。

「せっかちですね」店主はフィルターを口に運んだ。「あなた方の行動は誘導されたと捉えらえるに十分な環境。ええ、誘導、これに思い切って考えを軌道修正すると、どうでしょうか。まるで意図された、そう、掌で転がされる猿そのもの」

「回りくどい」種田がいう。目上の人物に対する発言としては正しくはないだろう。

「屋上の死体、停電、レセプション、新商品発売、行列、限定捜査、飛行船、サイト、これらはお二人をその場所か、飛行船の操縦者を認識させたかった。つまり……」

 種田はテーブルに右手を添えて、若干体を乗り出しつつ言葉を遮った。「私が飛田という人物の経歴をここで、あなたに伝える行動も予測されていたと?」より大胆。彼女は両腿に腕を乗せて、舌打ちした。「ありえない」

「死体の身元は判明しましたか?」店主は鈴木に訊いた、種田とのやり取りを宙に浮かべてしまう。

 慌てた鈴木は、ポケットから手帳を取り出した、ページを捲る。「名前は八代幹夫、通信機器販売会社レッドリールの支店長です。店は現場から縦の通りを挟んだかなり近い場所が勤務先でした。当日はレセプションに出席していたようで、ブルー・ウィステリアの日本支店の支社長林や社員数人が名刺の交換を済まていました。翌日から勤務先に姿をみせなくなり、会社では困惑していたようですね」