コンテナガレージ

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本日はご来場、誠にありがとうございました2-6

「その方に家族は?」

「ええ、妻と娘がいます。被害届けは……、はい、提出されてませんね。会社側が異常事態だと奥さんに告げても、取り合ってもらえなかったということです。なんでも、以前から外泊が多くて、家に帰ることは少なかったと。仕事の煩雑期は自宅に帰る時間を惜しんで、ホテルや支店の二階に泊まり込んでいた様子です」

「何者が私たちを誘導すると、言うのでしょうか、納得のいく説明が聞きたい」種田は半眼で睨みつける、肉を狙う獰猛な猫科の肉食獣にみえた。性別の関与だったら面白い、それは対抗心と名前がつく。

 店主は斜め上を見つめた。

 覚えてる記憶では、被害者と店の支店長は同一人物であると噂した喫茶店内の会話、を彼女ら刑事は私に提供していた。噂話を発したのは二人の女性であった。二人は互いの秘密、家庭を持つ支店長との個人的な付き合いと以前の交際関係を理由に互いに口外しないことに話が落ち着いた……。それから、一方が真相の告白を訴えた。無縁仏ではかわいそうだと、そういった理由だった。もう片方のリアクションは……答えはあいまいだったように思う、僕の記憶があいまいなのかもしれない。

「すみません」種田が指向性の強い音声を向けた。「質問に答えてください」

「うーん、そもそも応える応えないの権利はこちらに帰属している、私の解釈は間違ってますか?」

「そちらが正しいです」

「わかっているが、状況を理解した上で……、とても自己陶酔に満ちた態度と了見ですね」

「S市警察は幕引きを目論む、事実は明らかにされるべきです」

 店主は黒い灰皿を引き寄せ、斜め向かいの鈴木の手元を見る。灰を落とした、彼もこれに習う。

「マスコミも買収されているのですかね、あれだけの騒ぎを引き起こした企業の近時の情報は多くの画面に向う暇な人物たちが、粗探しに必死のはず。私の元まで聞こえ届かないだけでしょうか」