「あるいは、警察がね」店主は言い添える。
「ええっ、警察もグルう?」大げさに小川が声を出す。
「結局、店長の推理は屋上で殺害が敢行されて死体が発生し、従業員が外界と遮断、その後警察が駆けつけ、夜明けまで搬出を待った」顎に手を乗せた国見が女流棋士のごとく盤面を見据える。
「あの刑事さんたちもそれぐらいは予測していたんじゃないんですかね?」小川は言う。床を見つめる国見と店主を交互に見やった。「なのに、店長に捜査の行く末を聞きに訪れた。手詰まりだったにしても、捜査権が制限されたにしても、店長の推理を聞いたにしても、もらされた内容は実に一般的、というか、内容を紐解いて綺麗に並べ直しただけのことですよね。それにですよ、もう一組の証言者にまったく触れていないのは刑事さんたちなりに容疑者リストから外したんでしょうかね。だって、新製品を卸す企業、それも製品のもう一つの窓口みたいな通信会社、そこの支店長が行方をくらました、関連性を否定するのは強引過ぎますもん」
「後述、後日談という彼女たちの追加報告が書かれた一枚も、文書で送られてきた」
「もうお手上げです。お尻が滑り出す前にカウンターを当てられちゃあ、追走なんて、はい、叶うもんですか」小川はカーレースの観戦を生きがいとする。この職業に出会ったのちにレースの魅力に取り付かれたらしい。
国見は興味を持って内容を尋ねた。「間接的に取得した情報ですか、それも?」
「まあ、そうだね。映像を書き起こした文章に違いないね、情景描写と音まで丁寧に書き込んでいた、ビデオをまわしたんだろう。女の刑事さんは不在だったようだ」
店主は言葉を切ると、気持ち足元に視線を落し、振り仰ぎ、首の角度を平常に戻し、一同を見渡して、文書の再送を始めた。