コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

巻き寿司の日6-1

「こちらに田所という人物が訪ねてきませんでしたか?」O署の刑事である種田は身分を明かす前にきいた。

「今しがた、裏口から出て行きました」

「そうですか」

「刑事さん?」店長は出て行こうとドアに手をかけた刑事を呼び止める。「フランス料理促進普及協会が殺人に関わっているという話を聞いたのですが、ご存知でしたか?」

「どなたからの情報ですか?もしかして、田所がしゃべったのですか?」種田の口調が早まる。

「彼の前に来た女性が田所さんとその協会の噂や憶測のような情報を私に伝えた。彼女も追われていたようですね、協会に関わりあった人物は次々と殺されていると」

「どのような人でしたか?」

「バイクのヘルメットを持ってましたね」店長は応えた。背格好は標準的、顔の特徴もそれほどなかったように思う、記憶を辿れば顔のつくりは想起できるはずだが、やはりヘルメットが邪魔をして想像を阻害する。圧縮された記憶は取り出しにくい、重要性の低さを貼り付けた理由をまずは紐解いて、それから記憶を掘り起こす必要があるのだ。

「そうですか、情報提供に感謝します」

 立ち去る種田に今度は小川が声をかけたが、口ごもり、店長に視線で許可を得ようとする。「……あのですね、ええっとですね、そうの、刑事さんは拳銃を持っていますけど、私みたいな人が拳銃をもしですよ、持っていて、店の中で人に向けでもしたら、罪に問われますか?」

「私の目の前で起きた現実であるならば、現行犯で捕らえられる。ですが、かつてそれを目にしたという記憶では逮捕は難しい。実弾が発射され、証拠となる痕跡なり物証が得られるのであれば、可能かもしれない。しかし、それも捜査員が出向くまでの判断に至るかは状況を判断する捜査員次第。警察が腰を上げないことには、証拠があろうとも鑑定や認識には至らない、当然のことです」種田は咄嗟に飛び出した聞き慣れた言葉、しかし市民の間ではめずらしい言葉に引っ掛かりを覚えた、店長には種田の反応が感じ取れた。

 彼女は言う。「拳銃が使われた、あるいは間の当たりにした」

「安佐、あんた、店のことを考えなさいよ」国見が小川の好奇心を嗜めた。

「あっっとう、そうだった。刑事さん、忘れてください。私はほら、海外ドラマでやたらと拳銃が登場するもんだから、その日本ではどうなのかなって、簡単に一般人が手に取ることができるのかなって」取り繕う小川は見え見えの嘘をつく。その発言を受ける種田は店長にこの場で展開された事態の真相を端的に求めた、彼女は田所を追っているのだろうし、早急に追いかけたいはずだ、と店主の観測し、種田の視線に応えた。