コンテナガレージ

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ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって1-6

「祈るかぁ、ぬううんん……」

「推理にかまけてないで、お前の将来を祈れ」

「先輩はどう、思います?」小川は厨房に戻る、一味足りない料理について、アドバイスを尋ねるみたいだった。

「店長は事件の核心にとっくに気がついている」

「やっぱり、考えることは一緒なんだぁ」小川はこちらに振り返った、ちょうど店主が作業台に振り返ったときと重なる。

「二人とも、いいかげん手を動かしてくれると有難いね。ランチまで三十分を切ったよ」店主はいい加減に、といった表情を顔全体に作る。警察に話した内容はとっくに記憶から抹消していた。おぼろげな感触、輪郭を感じ取れるまでに、短時間で無用な部類に施す処理の迅速さ、抱えておく重要性の低い記憶から切り落とす。そうしなければ、限られた処理能力を料理の構築にいかせないではないか。

「ほうら、さっさと持ち場にもどれ、後輩」館山の肩が小川をぐいっと押し出す。彼女の片手はすすけて汚れ、もう一方はタリエーレの柄を持ち、弁慶のように構える。

「わかりましたよう。私もですね、気になった、その程度の好奇心をほんのちょっと、わずかに数ミリだけ外に出したんじゃありませんか、怒ることはないですよね、店長?」

「……僕は出勤時間の数時間前に来て欲しい、と頼んだを覚えはないよ」

「うっ、それを言われると、返す言葉もないです、はい、勤しみます」

 ホールの準備が整った、国見蘭は店の財布を持って両替に出た。ホールに移す視線、窓から覗くお客の顔があった、整列がどうやら始まったらしい。

 午後十一時開店。

 店内の飲食を表の黒板で呼びかけ、伝えていた、テイクアウトや選ぶ料理が単品の場合、予めお客に料理の選択を迫ることは行わない。対して今日は席に着き、注文をとる、通常の見られるオーダーシステム。なお、通常とはいえ、かき揚げの大小とピザの有無、それからテイクアウトも可能という特殊な注文を席に着く前、案内する玄関前で行う算段である。テイクアウトは、予期せぬ持ち帰りをお客が受け止め、行動に踏み切る動向を観察しておきたかった。

 移転先のビルが頭を過ぎった。