水曜日。午後二時三十六分。S駅北口コンコース内。喫茶店ルバーブ、一階、水槽前。気温十二度、うす曇、肌寒い、昨日は雨、乾燥した店内は暖房の稼働が要因。運良く、彼女たち隣に席を確保した。
「ごめん、休みの日に呼び出しちゃって」低音で多少のかさつく声が稗田真紀子。
「深夜便で近隣諸国に旅出る気力とリフレッシュの意味は未だに見出せていないもの、私用は午前中で済ませた」そっけない口調のもう一人が、真下眞子。二人は通信機器販売会社・レッドリール、駅前通り支店の社員である。
「ご注文は、いかがいたしましょう?」これはビンと弾いた弦楽器の低音みたいなウエイター。
「コーヒーとハムサンドのセットを」
「お客様、コーヒーのお代わりは?」
「ああっと、いえ、まだ大丈夫です」
「左様ですか、失礼致しました。それではごゆっくりと」
「言ってないわよね?」稗田が言う。
「その言葉をそっくり返したいわ。だけど、私の性格を知ってるでしょう?話す思う?」
「可能性はゼロ、とは言い切れないでしょう」
「お互い様」真下は言う。「呼び出した側が白だって決め付けられる、かなり不平等なスタートね」
「新製品の対応に追われて、今日でやっと休憩が取れた、忙しさの波が一挙に引いたのよ。見ていない、ブルー・ウィステリアの会長の会見?」
「見てはいない、読んではいた。一行足らずの文字情報をね」
「これよ、さっき買ってきたの、どうせ詳細に興味はないだろうからって」
がさがさ、ばりぱり。経済新聞が開かれ、畳まれた。
しばしの沈黙。その間に、ハムサンドが運ばれる。
「そっちはお昼を食べたの?」真下がきいた。
「ダイエット中、固形ゼリーでエネルギーをチャージ、忙しさで目が回ってもう食事に気をかけていられないんだわ、時間が空いたら少しでも眠りたい。……あなたはいつもどおりね」
「そう、相変わらず」