コンテナガレージ

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手紙とは真意を伝えるデバイスである2-2

「帰る!」

「待ってください」熊田は引き止めた。「あなたにはまだ訊いておかなくてはならないことが山ほどある。まあ、席に座って気を落ち着けて」

「噂を真実と言い張って警察が流す。だから、いつまで経っても警察が信用されないんだ」悪態をつきながらも武本は席に座り直した。ぐらっと腕をのせたテーブルから振動が伝播する。沸騰した感情の噴出でかろうじて退出は思いとどまったようだ。割合、感情の統制は言葉を吐くことでバランスが取れるものだ。

「私ではない人が起こした不祥事を私が背負うというのは理に適いませんが、まあ、仕方ありませんね。しかし、謝っても許してはくれない。だから、黙るしか方法はない」

「呼び出した理由を言ってもらえますかね」安藤の口調も幾分キツめに変化、場内の雰囲気やはり感情と同様に伝播するらしい、緊張やあくびの連動と同じ作用。

「お二人にはまだ隠している社長に関して、あるいはここで起きた抜かりのない事実全般を話してもらうためです」

「全部話しましたよ、もう解放してくれても。他の人はとっくに帰りましたよぉ」

「ええ、帰りたいのであれば、協力をお願いします」

「一人ずつで話がしたい。余計な奴に話を聞かれて、ばら撒かれたらかなわんかなら」見下すように武本は横目で安藤を見る。

「いい加減にしてくれますかね。僕は刑事さんに言われて話しただけなんですから」

「だから何でも好き勝手、想像で話していいとこにはならない」

「知らないですよ。刑事さんが拡大解釈で話したのかもしれない。僕は怒らせるようなことは言ってません」

「社長との関係に信憑性があったっていうのか、おまえ」

「ちょっと、お前って言い方、やめてください」

「名前があるから読んでくださいか、まったく。犬とペットと言わないで、そういってるようなものだな。誰に、何を言っているのか、伝われば、問題はない。黙って受け入れろ」

「ほんとに、怒りますよ。刑事さん、あなたはなんて伝えたんですか、僕はあくまでも、噂だって言いましたよね」安藤は会議室の長机、天板に両手をついて、中腰に姿勢を変える。いいや、既に立ち上がっている。コーヒーの液面が揺れて、満タンだったらこぼれていただろう。量が減った黒い波がふちまで。岸壁に打ち寄せる波を連想させる。

 熊田は安藤の言葉を受けて武本に説明を施した。「武本さんと社長の真島マリさんを社外で見かけたという情報です。安藤さんの体験ではなく、あくまでもその噂を他の社員の方が話しているのを聞いた、ということです。噂は不可抗力で聞いてしまった、いわば、盗み聞きということです」