コンテナガレージ

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手紙とは真意を伝えるデバイスである2-1

 引き続き六F

 会議室に二人を呼び寄せて、対面の席に座らせる。二人は一つ席を空けて座った。社長室側に安藤が座る。武本は上着を脱いで暑そうにジャケットを隣の席に皺にならないよう几帳面に置いた。

「エレベーターで一緒になりましたか?」冷めたコーヒーを口にする、苦味が増してなんともいえない好みの味。熊田は二人を観察する。

「時間通りに来たので」武本は安藤アキルにわかりやすい威圧を込めていた。顔は熊田を捕捉しているが、攻撃対象は安藤らしい、告げ口が要因。

「僕も息を合わせたつもりはありません」

「午前中、お二人はエレベーターで鉢合わなかった、なぜでしょう?」

「愚問ですね」武本がふっと息を漏らす。「わかっていると思いますが、彼よりも私のほうが時間には正確。一日に二つの案件を処理するのですから、当然といえる。これほどの証拠はないでしょう」

「開始前に着いていれば問題はない、時間を有効に使っているのは、むしろ僕のほうですよ」と、安藤。

「人のことをぺらぺらと話すための時間稼ぎか?」武本は首を反らせて、安藤を見やった。

「はあ?なにわけのわかんないことを。言いがかりは大人気ない」安藤は取り合わないつもりだ。噂を話したことは私が黙っていると信じきっているのだろう。しかし、私は武本に安藤から噂レベルの話をこっそりと伝えていた。だが、武本には私から聞いたことを黙っているようにとも言い添えた。熊田はこうして二人の間に取り巻く、事実関係以外の疑念を振りまいて、彼らの本心を暴きだそうと画策しているのだった。二人が話す内容は、噂レベルと真実の狭間。巻き上がり、奮い立つ感情。そこから漏れ出す本心を熊田は掬い取りたいのだ。彼らはまだ隠した事実を懐で温めているように思う。直感、勘、という曖昧なざわめき。しかし、核心に変える、間違いのレッテルを貼るには行動あるのみ。止まっていられないのだ。

「私のことをあれこれとしゃべって、大人気ないとは。よく言えたもんだな」

「なんのことですか!はっきりといえばいい」

「私と社長の関係をどこから嗅ぎつけた?」

「刑事さん、喋ったんですか。しかも、あれって……本当の話だったんだ。ええ、そうなんだ」

「確証がないのに、そこまで言い切ったのか?」

「言い切ったって、僕は噂で聞いた話を刑事さんに伝えただけですよ、もちろん、断点なんて」安藤は力の限り肩を上げた。「とんでもない」

「刑事さん、あなたは何を聞いて私にどう伝えた?」武本は疑いの眼差し。隠れた行動に厳しく追及するように、彼は上半身、前に体重を乗せる。

「私は安藤さんに、武本さんについて何か知っている事を教えてください、武本さんには個人名を伏せて私が集めた情報としてお伝えしますので。そのように言いましたが、何かご不満でも?」