コンテナガレージ

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ズームアウト2-1

 男は時間ぴったりに出来上がったワイシャツを取りに姿をみせたが、翌日に問題が起きた。朝から駆け込みでしかもまだ開店前の午前九時に二人のお客が至急、汚れを落として欲しいとの要望をさも当たり前に私が以前から請け負っていたかのような面構えと態度。まだ準備中であり、優先的な緊急性の仕事に対応してはいないのだと、相手の逸る気持ちを宥めるように私は店の対応を説明した。一人が納得し返ったものの、もう一人はたった今、汚れを落とすことが必要なんだ、これは今日着るつもりの服で昨日見落とした箇所にしみができていたのを今朝見つけて、もうシミを落としてもらうしか方法ないのだと、切実な訴えにしたかなく、二日続けて私は要求に応えた。

 遅れた開店準備に取り掛かったのが開店の十分前。何とか、店は刻限どおり開けられたが、体の疲労は拭えない。昨日の残業が祟ったのだ、汚れを専門に落とす職人の仕事を止めて、彼らに他の仕事を手伝わせるわけにはいない、受付と会計の私がもっとも手が空いている。改めて感じるが、新しい試みは日々の作業に応えない程度におさえて取り組むべきが肝要である。それも従業員の同意をまずは得るべき。

 午前中、業務が滞りなく進むかにみえた。しかし、一時間に一人は緊急の仕事を持ち込む。しかも、店には躊躇うことなく入ってくるのだ。あの男性がしゃべったのだろう。

 午後、また人が増えた。お客の切れ目を待って、「即時対応お断り」の張り紙を店のドアに張った。レジの前にもテープで止めた紙をお客に見えるよう、見えなかったとは言わせないように目に入る場所に貼り付けた。その効果か、一度店に入ろうとした女性がドアで仰け反って、入店を躊躇った。やはり、情報が漏れている。二の足を踏んだ彼女が情報をばら撒いてくれれば、緊急性を訴えるお客は来ないだろう、と私はそう事態の流れを読んだ。その日、飛び込みの客足は鳴りを潜めた。

 それから一週間が経過。当初、汚れ落としの緊急対応の処理は完璧に対処したかに思えた。しかし、効果は一過性。乗り切った翌日はお客の来訪がさらに増えた。張り紙も変えたが、誰も目に留めない。列が並べば、表に出て緊急性の汚れ落としは対応しかねる、と大声で伝達することを、何十回と繰り返し、これがなんとも一週間も続いたのだ。昨日はさすがに、お客の数も減り、たいぶ落ち着いて店番に臨めたのであるが、大勢のお客が店の対応を占領したために、常連客の足を遠ざけてしまったらしい。出来上がり期日を過ぎた服が数着、店に待機してあった。