それから二週間後。
ビルの新装開店の日取りに、移転先の店を開けた。店名はワンハーフポイントと名づけた。二号店でもなく、一号店とはいいにくく、しかし店のコンセプトは正しく継承してる意味合いを込めた。まあ、店名などその場所に店があれば、お客は来るのである。言わずもがな、ホームページやメディアの取材は受けない。情報誌の掲載も断る、唯一ビルのパンフッレトに営業時間と店名を載せた、もちろんしぶしぶである。ささやかな抵抗は、メニューの明記を拒んだことぐらいか。それでもたぶんお客が情報を蚊のように、食べた、見た、並んだ経験を媒介してくれるだろう。対象のお客は、この町に定期的にそれこそ毎日通う人たち、何気なく道を通る、買い物、用事のついでに立ち寄る、気軽な訪問が店主の求める客層だ。
開店初日、疲れきった従業員たちが話していた。店主は人数分のコーヒーとひし形のアンパンを片付けの完了に伴い冷蔵庫から引き出した、時刻は午後十時四十分である。
店主と対峙、北側、通りの反対側の壁に向かう小川安佐がこぼれそうなアンパンのくずを、顎をとっさに上に向けて落下を防ぐ。その隣の館山リルカは腕を組み、「いたただきます」と僕に一言告げてコーヒーを傾ける。T字の横棒右の端に国見蘭が立つ。彼女は会計作業の一手に引き受ける、お客の対応は彼女と小川の二人の担当であった。彼女は時間内に十一時までに完遂する計画を立てているらしい、今日のハードワークは明日以降の改善される、そのための限界の把握。
「そういえばですよ」小川が口を動かしながら振り向き、思いついた考えを発した。彼女らしい思考と行動である。「
ブルー・ウィステリアの事件って解決しましったけ?」
「さあ、ことんとこ、キッチンスタジオと家の往復で世間の情報を取り入れる暇なんてなかったもの」館山が言う。