コンテナガレージ

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お手を拝借、今日はどちらに赴きましょうか?5-7

「聞きたくない。聞かない権利は僕にだってあるはずだ。君が店の将来を案じて弁護士に僕を介さずに、事情を話し打開策を聞き出すようにね」

「行過ぎた判断と承知の上です。拒否されるもの想定してあります。それでも、私はこの店のためを想ってこそだと行動に移した。どうか聞き入れてください。選択の一つに、ここに留まる可能性を残して欲しい」潤んだ瞳が見えた、照明ためだろうか、店主は肩を落とした。落胆ではない、単に肩の力みをほぐしたのだ。

「誘われたビルへの移転をかなり警戒、軽蔑視してるね、国見さんは」

「当たり前です。いくら一等地、一階の好条件だからといって、お客さんはいつも店を構える日曜定休日のうちの店を目当てに、目印に足を運ぶ。これは店長がおっしゃっていたアイコンの役割ですよ、忘れたのですか?」

「いいや、覚えてる。記憶力はそれほど悪くない」

「だったら、移転にはデメリットこそあって、メリットを見出すことはできません。既存のお客が足を運んで、店の張り紙の移転先にわざわざ足を向けてくれるのか、より現実的な予想は、今日は別の店で食べて明日からは、移転先に行こうかって思えますか。私なら忘れてしまいます。だって、ここでなくては移転先で料理を振舞う理由にはまだまだなり得ません。しかも二週間、店の名前を忘れさせる妥当な期間です」

「コーヒーを買って来ようと思う」

「はい?」気をそがれたのか、国見が素っ頓狂は声を発する。店主は構わずに、彼女の脇を通って、斜向かいのコーヒースタンドで二つのカップを購入、店に戻った。ドアの前で待つ彼女はいぶかしげ、量るようにこちらを見つめた。

「熱いから、気をつけて」店主は厨房に入る。背中越しに言われた。

「話をはぐらかせないでください、私は真剣です」