コンテナガレージ

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小説は大人の読み物です。<「する」と「できない」の襲来 4>

 虚を衝く来訪は見慣れた場面とは決して言い切れず、それでもこの店では幾度となく、いや等期間が過ぎ、来訪者を甘んじて、迎入(むかえいれ)る。大勢に乗じる混雑時が登場の機なのだが、今回は見計らった頃合が開店前に顔を出した。 

初対面は発言(はつごん)の理解を外国語や方言に耳を傾けた瞬間の遅れと似せる。

「……ないって、その何がないんです?」小川安佐が目を白黒させて尋ねた。訪問者の背後で扉(door)が閉まる。 気温較差は小さい、湿度の高まりも雨を降らせるには至らず、上空が風は地上の向きとを異に厚い雲の群は一夜の間市内を通過(すぎ)て陽の模様。 店主は閉まる扉(door)を調べ合う、それは朝に見られ開店と閉店の間は鳴りを潜める。お客がために、であるからだ。、天候に恵まれる川辺を一服の帰り目の確かめた、不規則(irregular)な献立(menu)の変更が突きつけられて、おそらくそれが原因だろう。表出はありがたい、かすか我(わか)を呟(なぞ)る。

「ダメよ。『ない』っていうのは禁断の言葉。禁じ手。最強であるがゆえに使用は異端者に扱われるのだ」魔法使い、腰に当てた左手は棒切れのように細く、洋服の形状も加味して繻子(satin)生地のてらてら角度により光の反射量を変える半袖(T-shirt)が大人様(おしゃま)な小娘(むすめ)が像と被る、十中八九成人は疾(とう)に迎えた。

「だめぇぇー」小川の口の開きに厨房内に駆け込む訪問者。 

 身手振(gesture)で呼吸のままならぬこと、軽はずみな言動は控えることを約束する小川は縦に首の振り。

「ぶはああ」

「私の前でも発言は私の管轄下だから、私が責任を負うの。わかってちょうだい」眉根を寄せて不合理な実行を説明(あらわ)す。訪問者に、息を整えた小川があえて指差し言い放った。小川安佐は危うく包丁を落とすところだった、危険であり、怪我をしかねない状況、背後の店長にも危害が及んだかも、それに何よりも、厨房に無断で食べ物を調理する場に外から着の身着のままやってきた訪問者がおいそれと自らの規則だか、信念だかに忠実であろうともね、ここは神聖な店長の厨房なのですから、真っ先にまずあなたがなすべきことは扉(door)の前に、いいえ店外に出て犯した所業を見返すべきなのですよ、と小川の銅鑼声が轟く。

 青銅器の打音は音の広がりと収束の静けさの両方が持ち味、店主はふと音の性質について考える。

「これは大変失礼な態度でありました」訪問者は春先より地下鉄で見かける大き目のrucksack(リュック)からこれまた流行なのか目にするの銀地で水玉模様(dot)の埋め尽くす定期乗車券入れ(passcase)を取り出す。名刺であった。「わたしく、大座こと。ご存知かと思います、表の通り、角のS川に面したtall building(ビル)の一階で先月に開業の運びとなった『PL』で働いております。今後ともなにとぞお見知りおきのほどを」

 かしこまった口調がしっくり態度に合わさる。屋敷に仕える使用人といえど、現在では誇張された人物・人格を引き立てる個の創出が主な目と耳にする機会だろうか。男装をした女性を何度か街中で見かけた覚えがあった。化繊の奇抜な色合いの後頭部が顔の前に歩いていた地区(area)である。

「店長、私が追い返します」機動器(swich)が入ったらしい、小川は挑みかからんばかり眼差しを大座ことに向ける。「そっから近づかな……、その場を動かな……、ああんもうじれったい、止まってろ、動くな、そして質問に答えろ!」

多用する、動詞に付いて意味を打ち消す「ない」を排した場合、喉へ押し戻す。「ない」のあとに言葉を和らげる「の」や「のね」「のでしょう」に「ので」「から」など願望や理由の付け足しを禁止される。だからといって、彼女に従う義務や権利はありはし「ない」のである。鋭敏な、禁句に反応を示した厨房までの機敏な動きは残像がちらちら記憶は鮮やかに再放を待つ、この場はひとつ彼女の言い分に従うか。もちろんおかしな世迷言と短時間で離れ、中断した昼食(lunch)の仕込みに戻りたいから。

「昼食(lunch)のお客さんを、こちらのお店で人数制限をどうか、八十人で停止(stop)してもらいたいのです!」額の斜め上で彼女は手を合わせた。金属光沢(metallic)の時計と髪留(かみどめ)が左肘へ数㎜、ずれ落ちた。

「頭がおかしいんですか?」言葉を切って小川が返答。「見くびってもらっちゃ困ります。八十人ってそんなの持ち帰り(takeout)じゃあ一時間で越えますよ。私が言うものなんですけどね、店長が黙ってるんで代弁するんですよ、うちは繁盛店です。大通り一帯でも五本の、ううんいいんやいや、三本の指に入る昼休憩(lunchtime)の集客数を誇ります。ですからね、あなたが言う八十人は雹(ひょう)が降ってやっとのこさの数字。ご理解いただけたら、どうぞ出口は真後ろです」

 泣き出しそうに大座ことは店主を見やった、小川の恫喝の途中から顔の向きを店主に変えていた。

「『長』はこちらの集客数を上回れる、可能だ、でき『ない』と誰が決めた。豪語してます。お店のためなのです、親切心です」背負ったままrucksack(リュック)から書類入れ(file)とそれより挟まる紙を取り出す、小川がそっと腕を伸ばし、掴んで離脱。店主に手渡す。

 誓約書

 一日の平均売り上げ八十人分 

 この全額『PL』が支払う      大座こと 印