コンテナガレージ

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論理的大前提の提案と解釈は無言と一対、これすなわち参加権なり 3~無料で読める投稿小説~

 宣伝効果を大層喜ぶ、ぜひまた機会があれば。担当者の名前は忘れた。飼い主の帰宅に飛びつく小型犬のように飛び跳ねる電話口の音声だった。最悪にして、幸い。退出するカワニが呼び止め、たまたま休憩とコーヒーの補給を兼ねる作業を中断した彼女へ端末が差し向けられたのだ。
 事件から幾日かは日が昇り降り、野外ライブはいつ、と訊かれても、曜日は一回りしただろうか、アイラ・クズミは年中無休、実質稼働日数は三百六十日±二日、といった数値に生きる。
「あの、死体に手をかけた人物って誰なんでしょうね?」カワニは画面を指で払う、狭小の画面に意思疎通の手段が内蔵されている。機会、がそこにぎっしりと詰まる。取り交わす議論の内容を吟味する各自の蒸留は疎かでおざなり。誤りは断続的な指摘が改善のきっかけとなる。係わる人物にはある程度釘を刺す必要があるだろう。私が合わせるなど、もってのほか。
 カワニの声は聞こえてる、耳の感度は良好だ。ソファに腰をかける。頭上、背後の時計を見て、ようやく彼女は口を開いた。午後の四時を回る。「搭乗者ですかね」
 一拍の間が空く。天井付近から捉えるカメラアングルに吸い込まれるよう切り替わり、カワニの振り返る姿を映す。
「あの中に犯人がいたとでも?まさかぁ、だって死体は荷物棚に……どうやって運び入れたんですか、ありえません」
「思い込みが可能を不可能に変えてしまう。あまつさえ情報量が少ない機内で犯行に及ぶ、これは非常にリスクが高く、確たる証拠を掴むきっかけを与えかねない」
「アイラさん、説明をしてますよね、いま?」
「気が向いたのです。空腹が無駄な情報を追い出そうとしてる、耳障りであれば、仕事に戻ってください。抱えるマネジメントは私だけではないのですから」熱いが、コーヒーを口につけた。彼女は猫舌である。
「滅相もない。こんな機会二度とないですからね」ばたばた、アイラの左隣にテーブルを迂回して彼は腰をすえた。これから記事を書くのだろうか、前のめりの体勢は空港の会見を呼び起こす。未だ私の出版許可を得られた記事はスタジオに送られてこない。カワニの簡易なチェックを受け、届く予定を組んでいた。転送にかかる送料が浮いた、というのが事務所の収穫ではあるのか。もっとも会見は先々を踏まえた末の状況説明だ、仕事の邪魔をしない程度の査読は予期していたので多少期待がはずれた、これは正直意外であった。
「まず規定をします」アイラは軽く腰を浮かせ座りなおす。未完成の曲が内部でありありと鳴る。不足箇所と過剰箇所の二点に絞り込んで脳内に流した。メリハリの作業に、ここでは特化し取り組む。他の作業を合わせたときの接触具合が最良なのだ、アイラは若干適温を外れる液体を我慢、喉を潤した。「犯人が機内に搭乗し、私の視界に一度でも入った人物。貨物室の隠れた第三者と副操縦士はこの時点で除きます。ややこしいですから」
「その二人のどっちかがもしも犯人であったら、殺した場所は機内、ですか?」カワニはきいた。引っ掛かりを覚えたイントネーションである。
「どちらでも。搭乗から着陸の間に私は二回の演奏に、二度席を離れた。機首側と尾翼側からフロアに到達することは不可能とはいえません。もっともフロア内にはアキさんにカワニさん、楠井さん、客室乗務員の二人、と監視役の存在があったわけですから、おいそれと勝手なまね、大胆な殺害、あるいは殺害し荷物棚に運び上げる、というのはいささか都合が良すぎる。五名のうち四名は仕事を抱える、乗客の三人が居眠り、その間に客室乗務員がギャレーに下がるタイミングは作られたにしても、長時間は難しいでしょう」カワニの引っかかりにアイラは答える。「私の演奏が狙われたとするるなら、尾翼、エコノミー、ギャレー、ハイグレードエコノミー、この空間内に犯人はひそみ、犯行や死体の運搬を行う。つまり、副操縦士が除外されます。機種側のビジネスフロアが演奏を始めた、演奏前はフロアを離れてはいませんので、副操縦士がハイグレードエコノミーフロアにて殺害や殺害したまたは事前息の根を止めた死体を運び入れる行為は私たちの目を留まりますから」
 カワニはうなる。首を僅かに傾けた。両足、股が軽く広がる。「うーん、副操縦士が怪しいと思ったんですけどねえ。ほら、一回目の演奏前にですよ、ギャレーに潜んでアイラさんをやり過ごすことはできわたけですし」